2019年11月13日、日本の鶏肉業界にとって歴史的な転換点となるはずのニュースが舞い込んできました。農林水産省が、欧州連合(EU)への鶏肉輸出が正式に解禁されたと発表したのです。しかし、本来なら祝杯を挙げたいはずの生産現場からは、意外にも困惑や慎重な声が目立っています。
インターネット上でも今回の発表に対し、「日本の美味しい鶏肉が世界に広まるのは嬉しい」という期待がある一方で、「基準が厳しすぎて採算が取れないのでは」と、輸出の実効性を疑問視する意見が散見されます。こうした反応の背景には、EUが求める極めて高い「衛生基準」という巨大な壁が存在しているのです。
高すぎるハードルと設備投資のジレンマ
EU圏への輸出を実現するためには、HACCP(ハサップ)などの高度な衛生管理システムへの対応が不可欠となります。HACCPとは、原材料の受け入れから出荷まで、全工程で微生物の汚染や異物混入を未然に防ぐ国際的な管理手法のことです。この基準を満たすための施設改修には、膨大なコストが重くのしかかります。
農林水産省の担当者も、少量の輸出量では莫大な投資に見合う利益を回収できるか不透明であると分析しています。日常的に食べられる安価な「ブロイラー(短期間で成長するように改良された若鶏)」ではなく、付加価値の高い「地鶏」でなければ、このコスト競争を勝ち抜くのは至難の業だといえるでしょう。
日本三大地鶏として名高い「名古屋コーチン」の輸出を手掛ける企業からは、EU市場の厳しさを指摘する声が上がっています。欧州はもともと地鶏文化が根付いており、ライバルが多い中で、あえて多額の投資をしてまで現地基準に合わせるメリットは薄いと、冷ややかな視線を送っているのが現状です。
和食文化とともに届ける「地鶏」の可能性
今後の活路は、単なる「食材の輸出」ではなく、日本の伝統的な食文化とセットで売り込むことにあるでしょう。日本食鳥協会は、親子丼やきりたんぽといった日本ならではの料理を通じて、地鶏特有の深い旨味や歯ごたえを世界に発信していくことの重要性を強く訴えています。
2018年の鶏肉輸出額は、香港などのアジア圏を筆頭に19億8000万円を記録し、前年をわずかに上回る堅調な推移を見せました。EU市場は確かに魅力的な巨大市場ですが、当面は限定的な輸出に留まる見込みであり、国内の卸売相場を大きく動かすような劇的な変化は期待しにくいと考えられます。
筆者の見解としては、安易な量での勝負を避け、「日本産地鶏」を高級ブランドとして確立する戦略が最優先だと考えます。厳しい基準を逆手に取り、「世界一安全で美味しい日本の鶏」という付加価値を国を挙げてブランディングしていくことこそが、生産者の不安を払拭する唯一の道ではないでしょうか。
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