学校の先生が家を訪ねる「家庭訪問」という響きに、懐かしさを覚える方も多いのではないでしょうか。しかし、大人になってから会社の社長が自分の実家を訪ねてくるという光景は、なかなか想像しにくいかもしれません。大阪市に拠点を置くソフトウェア・制御機器開発のプロアシストでは、まさにそんな驚きの光景が日常となっているのです。
同社の生駒京子社長は、関西圏以外から入社した社員の実家を自ら訪ねる活動を続けています。この取り組みは2019年11月18日現在、すでに15年ほど継続されている恒例行事です。SNSでは「今の時代にこんなに熱い会社があるのか」「親孝行になりそう」といった驚きと称賛の声が上がっており、合理性が重視される現代において異彩を放っています。
社長がわざわざ遠方の実家まで足を運ぶ理由は、社員が日々仕事に打ち込めるのは、ひとえに帰る場所を守るご家族の支えがあってこそという感謝の念からです。2013年には海を越えて韓国の釜山まで、社員である元成美さんのご家族に会いに行きました。社長から直接「娘さんは会社に貢献してくれています」と伝えられた母親は、深い安堵と喜びを見せたといいます。
「大家族主義」が育む、働きやすさと絆の好循環
生駒社長の根底にあるのは「多様性を尊重する大家族主義」という経営理念です。240名を超える社員を、人生の時間を共有する大切な家族として捉えており、社長自身は彼らを見守る「親」としての役割を自負しています。この考え方は、企業を単なる利益追求の場ではなく、人と人が支え合う温かなコミュニティへと昇華させています。
実際に家族ぐるみの交流は実家訪問に留まりません。毎月のスポーツレクリエーションや、7月の天神祭に合わせた本社での花火観賞会、さらには社員旅行にも家族が同伴することが珍しくありません。お互いの家庭環境を知っているからこそ、家族の事情で休暇を取る際も周囲の理解が得やすく、仕事と家庭の両立が自然と叶う風土が醸成されています。
私は、この取り組みこそが究極のインナーブランディングだと感じます。社長自らが「あなたの存在を大切にしている」と行動で示すことは、どんな言葉よりも社員の帰属意識を高めるでしょう。人手不足が叫ばれるIT業界において、こうした「心の報酬」を提供できる企業は、結果として非常に強固な組織力を手に入れることができるはずです。
温かさだけではない「自律」を促すプロの厳しさ
しかし、プロアシストの文化は単なる「甘やかし」ではありません。生駒社長は親としての慈愛を持つ一方で、プロフェッショナルとしての厳格な評価制度も徹底しています。2016年には、年齢に応じて給与が上がる仕組みを廃止し、自ら掲げた目標への挑戦を評価する「チャレンジ制度」を導入しました。これは実力主義への大きな転換です。
専門用語で言えば、この制度は「目標管理制度(MBO)」をさらに進化させたものと言えるでしょう。社員が自ら課題を設定し、審査委員会がその達成度を評価して昇格を決める仕組みです。等級が上がらなければ昇給もしないという厳しい側面がありますが、これは「本気で挑戦する人に報いたい」という、家族を守るための強い責任感の裏返しでもあります。
愛着と自律の絶妙なバランスこそが、同社の成長の秘訣と言えそうです。2020年には中国への訪問も計画されているとのことで、この温かな交流の輪はこれからも世界へと広がっていくでしょう。一見すると効率が悪く見える「実家訪問」が、実は最も効率的に信頼関係を構築する、次世代の経営モデルを提示しているように感じてなりません。
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