「政界、一寸先は闇」という言葉を残したのは、かつて自民党で辣腕を振るった川島正次郎氏でした。2019年11月、南米ボリビアで起きた急激な政変は、まさにこの格言を象徴するような衝撃を世界に与えています。
事の発端は、2019年10月20日に実施された大統領選挙でした。先住民出身として初の元首となり、長年国を率いてきた反米左派のエボ・モラレス氏が4選を決めたと発表されましたが、この結果に不正疑惑が浮上し、国内では激しい抗議の嵐が吹き荒れたのです。
さらに、米州機構(OAS)が選挙に不正があったとの調査結果を公表したことで、事態は決定的な局面を迎えます。米州機構とは、南北アメリカ諸国の平和と安全を目的とした国際組織ですが、その発表は火に油を注ぐ結果となりました。
混乱のさなか、2019年11月10日には軍の最高司令官が辞任を勧告するという異例の事態に発展します。これを受け、モラレス氏は即座に政権を放り出し、翌日にはメキシコへ亡命するという、まさに暗転とも言える幕切れを迎えました。
「ピンクの潮流」が直面する激しい逆流の正体
かつて2000年代の中南米では、社会主義的な政策を掲げる左派政権が次々と誕生し、その勢いは「ピンクの潮流」と呼ばれました。これは、過度な市場競争を重視する「新自由主義」がもたらした格差への、民衆の怒りが生んだうねりでした。
しかし、現在その潮流は大きな曲がり角に立たされています。資源価格の下落によってバラマキ型の経済政策が破綻し、かつての勢いは失われました。SNS上でも「理想だけではお腹は膨らまない」といった、現実的な生活苦を訴える声が散見されます。
ボリビアのデモ参加者たちが「第二のベネズエラにしてはならない」と叫んだのは、経済崩壊に直面する隣国の惨状を恐れたからに他なりません。権力に固執するあまり憲法を軽視したモラレス氏の姿勢は、民衆の不信感を買ってしまったのです。
現在、右派のアニェス氏が暫定大統領に就任しましたが、これに対しモラレス氏を支持する先住民たちが猛反発し、衝突による犠牲者も出ています。SNSでは「これは民主主義の回復か、それとも軍部によるクーデターか」と、激しい論争が巻き起こっています。
揺れ動く中南米が突きつける現代社会の課題
中南米の動向を見ると、ウルグアイやエルサルバドルでも右派への政権交代が相次いでいます。一方で、新自由主義の優等生とされたチリやコロンビアでは、深刻な格差に対する大規模な反政府デモが発生しており、混迷は深まるばかりです。
私は、この左右への激しい揺り戻しこそが、現代社会が抱える病理そのものであると感じます。左派が台頭すれば経済が停滞し、右派が実権を握れば格差が拡大する。この「極端から極端へ」の連鎖を断ち切る道が、いまだに見つかっていないのです。
政治の正統性は、単なる選挙の結果だけでなく、法の支配と民衆の納得感によって支えられます。ボリビアの混迷は、それを無視した権力がどれほど脆いかを教えています。2019年、私たちは歴史の大きな分岐点を目撃しているのかもしれません。
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