2019年12月02日、世界を驚かせるエネルギー界の巨大プロジェクトが産声を上げました。ロシア東シベリアの天然ガスを中国へと運ぶ初のパイプライン「シベリアの力」が、ついに開通したのです。中ロ国境とソチ、北京をテレビ中継で結んだ華やかな式典では、プーチン大統領と習近平国家主席が互いの結束を強調しました。
プーチン氏は「エネルギー協力が新たな段階に入った」と胸を張り、習氏も「ロシアとの関係は外交の最優先事項」と応じました。SNS上でも「巨大な利権の誕生だ」「中ロの距離がさらに縮まる」と、地政学的な変化を予見する声が多く上がっています。しかし、この蜜月の裏側には、消費国が供給国を揺さぶる「価格包囲網」という厳しい現実が隠されています。
同床異夢のエネルギー外交と中国のしたたかな戦略
表面上の華やかさとは裏腹に、ロシアの立場は決して楽観視できるものではありません。専門家の間では、今回のプロジェクトは「同床異夢」であると冷ややかに見られています。同床異夢とは、同じ場所にいながら全く別の目的を持っている状態を指しますが、まさに今の両国の関係を言い当てている言葉と言えるでしょう。
実は中国側は、ガス需要の見通しを大幅に下方修正することをロシアに通告しています。中国にとってこのパイプラインは、あくまで他のルートが止まった際の「バッファー(予備的な緩衝材)」という位置づけに過ぎないようです。初年度の供給量は50億立方メートルに留まる予定で、フル稼働の目処は立っていないのが実情です。
さらに深刻なのは、ロシア側が建設費の680億ドルをすべて自前で負担している点です。ドイツ向けなどの欧州路線では相手国の出資を受けて「運命共同体」を築いてきましたが、今回はロシア一国が巨額の投資リスクを背負っています。これにより、中国側は「条件が気に入らなければ供給を止めても困るのはロシアだけだ」と足元を見ることができるのです。
欧州でも逆風!追い詰められる「ガス大国」ロシアの誤算
ロシアの苦境は対中国だけではありません。伝統的な輸出先である欧州でも、その独占的な地位が揺らいでいます。2019年09月には、欧州司法裁判所がロシア政府系企業「ガスプロム」に対し、不当な市場支配を制限する判決を下しました。これにより、ドイツ向けの輸送量に制限がかけられ、ロシアの影響力が削がれています。
欧州は「エネルギー安全保障」を理由に掲げていますが、その本音はロシアを標的にした値下げ交渉の圧力であると考えられます。エネルギー安全保障とは、国が生きていくために必要なエネルギーを、安定的かつ適正な価格で確保することです。消費国側はあえてロシア以外の選択肢を強調することで、価格競争を煽っているのです。
日本への影響と試される交渉能力
こうした国際的な駆け引きは、決して遠い国の出来事ではありません。日本もまた、エネルギーの中東依存を減らすために、ロシアからの輸入拡大を検討しています。しかし、プーチン政権は日本を「中国との交渉を有利に進めるためのカード」として利用しようとするでしょう。資源を持つ側が強い時代から、消費国が団結して条件を突きつける時代へと変わりつつあります。
個人的な見解を述べれば、これからの時代、資源外交は単なる「買い手と売り手」の関係を超えた、高度な心理戦の様相を呈していくはずです。ロシアがガスを外交の武器にするのであれば、日本もまた、他の消費国との連携を強め、相手の弱みを突くような「したたかな外交」を展開しなければなりません。今、日本の交渉能力が真に試されているのです。
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