機械部品の分野で世界シェア5割という圧倒的な存在感を誇るTHK。その主力製品である「リニアガイド」は、工作機械や半導体製造装置が滑らかに動くために欠かせない、まさに「産業の背骨」と呼ぶべき部品です。現在、工場自動化(FA)の波が再び注目を集める中で、同社の株価は期待ほど伸び悩んでいます。
この状況の背景には、かつて押し寄せた空前の注文ラッシュが残した「重い宿題」があります。SNS上でも「景況感は上向いているはずなのに、なぜTHKの業績は重いのか」といった投資家の戸惑いの声が散見されます。その答えを紐解く鍵は、同社が抱える膨大な受注残の消化スピードに隠されているのです。
「受注残高回転日数」が示すTHKの現在地
専門的な指標になりますが、企業の効率性を測る「受注残高回転日数」に注目してみましょう。これは、手元にある注文を現在のペースで売り上げるのに何日かかるかを算出した数値です。いわば「注文の行列が解消されるまでの待ち時間」を可視化したものと言い換えることができます。
2019年9月30日時点のデータを見ると、THKの国内事業における回転日数は95日に達しています。かつては30日から60日程度で推移していたことを踏まえると、現在は異例の長期化が続いている状態でしょう。ライバルのハーモニック・ドライブ・システムズが約3年前の水準まで回復しているのと対照的です。
納期が長引くことは、一見すると「仕事が豊富」でポジティブに思えるかもしれません。しかし、ビジネスの世界では鮮度が重要です。出荷までの期間が長すぎると、顧客側の事業環境が変化した際に「やっぱりいらない」というキャンセルや、納入時期の延期といったリスクに晒されることになります。
2017年の狂騒と未来への投資バランス
すべての発端は2017年に起きた爆発的なFAブームでした。同年10月から12月の3カ月間だけで、THKには482億円という驚異的な注文が舞い込みました。急激な需要増に生産体制の強化が追いつかず、結果として供給が後手に回ってしまったことが、現在の「渋滞」を引き起こした原因です。
2019年12月期の連結純利益は、前期比で7割以上も沈む95億円という厳しい着地が見込まれています。市場ではFA機器の底入れを期待する楽観論も囁かれていますが、私はTHKが抱える「リスクを含んだ受注残」を考慮すると、手放しでの楽観はまだ早いのではないかと考えています。
編集者の視点から言えば、同社の真の復活は、2020年に完成予定のインド新工場による生産能力の適正化にかかっています。増産による納期短縮と、固定費というコストのバランスをいかに取るか。この舵取りこそが、投資家が最も注視すべき、同社の次なる成長へのチェックポイントとなるでしょう。
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