居酒屋チェーンとして全国にその名を知られる「世界の山ちゃん」を運営する株式会社エスワイフード(本社:名古屋市)が、今、積極的な多角化戦略を推し進めています。看板メニューである手羽先だけに頼る体制からの脱却を図り、新たな客層の開拓と持続的な成長を目指すのがその狙いです。具体的には、新業態であるヤムチャ店の店舗展開を加速させるほか、既存の主力業態の一部店舗でランチ営業を開始するなど、これまでの「山ちゃん」のイメージを覆すような取り組みが次々とスタートしています。
エスワイフードが2018年12月に名古屋市内にオープンさせたのが、新業態のヤムチャ店「世界のやむちゃん」です。こちらは、お茶を飲みながら点心などの料理を楽しむ、いわゆる飲茶スタイルのお店を指します。「山ちゃん」との徹底的な差別化が図られており、主要な顧客層である40代以上の男性サラリーマンとは異なる、特に女性客に焦点を定めているのが特徴です。約40種類もの豊富な点心を、すべて1個から注文できるスタイルを採用しており、「少量ずつたくさんの種類を食べたい」という女性の要望に見事に応えています。カラフルな升に入った点心など、「インスタ映え」を意識したメニュー展開も功を奏し、早くも人気を集めています。同社では、この「やむちゃん」業態を、今後2〜3年以内におよそ10店舗まで増やしていく計画を立てているとのことです。
手羽先屋のランチとシメのラーメン!既存店の価値向上への挑戦
手羽先料理を主軸とする既存の「世界の山ちゃん」業態においても、改革の動きが見られます。例えば、2019年4月には岐阜県大垣市の店舗で、初の試みとなるランチ営業がスタートしました。ここでは、手羽先でおなじみのスパイスを隠し味に使用したあんかけオムライスなど、個性的な新メニューが提供されています。既存の店舗設備をそのまま活用するため、追加の賃料などのコストが発生せず、山本久美社長も「拡大余地は大きい」と手応えを感じているようです。メニューを限定し、少人数での店舗運営を可能にする工夫も凝らされており、この成功事例を他店舗にも順次広げていく考えが示されています。
さらに、飲酒後の「シメ」の需要を取り込むための新型店も愛知県小牧市に開設されました。これは、ラーメンチェーンのファーストモア(名古屋市)からの承認を得て実現した、ラーメンを提供できる「山ちゃん」の新店舗です。手羽先とビールを楽しんだ後、移動せずにその場でシメのラーメンまで味わえるという利便性の高さが好評を博しています。手羽先からラーメンまでを一つの店舗で完結できる、顧客の利便性を高めた新しいアプローチでしょう。
こうした新業態や新サービスの開発を急ぐ背景には、看板メニューである手羽先一本に依存することへの強い危機感があります。これまでエスワイフードは、主に男性サラリーマンの宴会需要を取り込むことで成長を遂げてきましたが、近年は売上高の伸び悩みが顕著になってきました。万が一、鳥インフルエンザなどの予期せぬ緊急事態が発生した場合、経営がたちまち行き詰まりかねないというリスクも抱えています。山本社長は、「山ちゃんに何かあったときに事業全体を支えられるように」と、多角化戦略を推進する理由を説明しており、企業としてのレジリエンス(回復力・耐久力)を高める狙いがあるのです。
このエスワイフードの動きは、外食産業全体におけるリスク分散と需要変化への対応という時流とも一致しています。例えば、中部地方で「なつかし処昭和食堂」などの居酒屋チェーンを展開する株式会社海帆も、事業リスクや個食化などの消費動向の変化に対応するため、居酒屋業態だけでは限界があると判断し、株式会社弥七(本社:東京・港)から立ち食い焼肉屋「治郎丸」を買収するなど、積極的な多角化を進めています。また、2019年4月にはタンメンの1号店をオープンさせ、将来の多店舗展開も視野に入れています。さらに、2019年6月27日に上場を控えるステーキ専門店の「あさくま」も、主力のステーキ店以外にビュッフェ形式の店舗やもつ焼き居酒屋など、およそ20店もの多岐にわたる業態を展開中です。日本料理店を展開する株式会社木曽路も、2018年には唐揚げ専門店「からしげ」という新業態を立ち上げています。
このように、中堅・大手外食チェーンが次々と多角化に乗り出すことは、市場の変化が激しい現代において、特定の業態やメニューだけに依存するビジネスモデルがもはや通用しなくなっていることの証と言えるでしょう。特に「世界の山ちゃん」が、従来のファンを大切にしつつも、女性をターゲットにした「やむちゃん」や、利便性を追求したラーメン併設店など、これまでとは異なる層へのアプローチを強化している点は、企業としての柔軟性と未来への強い意欲を感じさせます。インターネット上でも、「手羽先以外の山ちゃんが気になる!」「インスタ映えしそうなヤムチャ、行ってみたい」といった期待の声が多く見受けられ、新たな挑戦に対する読者の関心は非常に高いようです。私見ですが、この多角化は一時的な話題作りではなく、既存の強みを活かしつつ、外食産業の厳しい競争を生き抜くための賢明な一手であると評価できるでしょう。手羽先という看板に甘んじることなく、次なる成長の柱を確立できるのか、今後の動向に大いに注目していきたいところです。
コメント