海外でのM&A(合併・買収)を成功させるためには、買収後の組織と人事の課題に適切に対処することが極めて重要だと考えられています。前回記事でも指摘した通り、特に「カルチャー」の適合や統合の問題にうまく対応できない場合、買収先の業績や、期待していた買収効果の実現に少なからぬ悪影響を及ぼすことになってしまうでしょう。
ここでいう「カルチャー」とは、単なる雰囲気ではなく、リーダーの発言や行動様式、買収先に対するガバナンス(企業統治)のあり方、コミュニケーションのスタイルや透明性、さらには職場環境や使用するテクノロジーに至るまで、非常に多様な要素を含んでいます。これらのうち、どの要素がどの程度影響を与えるかは、買収後にどの範囲まで統合を進めるのかという方針と、買収元・買収先双方の組織と人材の現状によって大きく左右されるものです。
M&Aの最大の特徴は、事業に非連続で劇的な変化をもたらすことにあると言えるでしょう。極端な例を挙げれば、世界数十カ国にわたり、数万人以上の従業員を抱える、まさに「生きて動いている組織」を、文字通り一日にして丸ごと迎え入れることになります。これは、例えば新たな市場参入や技術獲得に費やすはずだった時間を一気に短縮する、いわゆる「M&Aで時間を買う」という効果を端的に示しているのです。
しかし、問題は「時間を買って」迎え入れた組織を、既存の組織といかに一体的にうまく動かし、当初想定した成果を達成するか、という点に尽きます。プレミアム(上乗せ価格)を支払って買収している以上、買収後には、買収先が単独では実現できなかったであろう方法による、さらなる業績の上乗せが不可欠となるでしょう。一体的な運営を実現するためには、適切なステップを踏んで統合を進めていく必要がありますが、「拙速(せっかちすぎること)」も「停滞(動きが止まること)」も望ましくありません。
特に、日本企業による海外M&Aでしばしば見受けられるのは、この「停滞」の方だとされています。目に見える事業の成長や、期待していたシナジー効果の創出になかなかたどり着けないケースが多いのです。その根本的な原因は、「買収先の経営者を効果的にコントロールし、その持ち前の知見や専門性をフルに発揮してもらいながら、買収元として求める業績をしっかりと確保する」という、最初の戦略的な体制づくり(立て付け)がうまくいかないまま、貴重な時間だけが経過してしまうことにあります。
具体的にどのような状況に陥りがちかというと、買収先の経営者は退任せずに残っており、人間関係も悪くないものの、肝心な事業推進においては買収元の意向通りになかなか動いてくれない、という状態です。かといって、その経営者を交代させることも難しい、という、何とも形容し難い「宙ぶらりん」の状況に陥り、その間に業績は芳しくない、というケースが少なくありません。この状況を事業面から捉えると、高い業績目標を設定して経営者のモチベーションを引き上げるという良い循環が作り出せないまま、買収先内部の状況が買収元から把握しきれず、有効な働きかけや組織の掌握ができない状態が続くことになります。そして、一度業績悪化や停滞のサイクルに入ってしまうと、ただただ状況を様子見するしかなくなってしまうのです。
加えて、海外の既存拠点と、新たに買収した海外企業の間で、本来合理的に進めるべきだった組織や業務の統合がなかなか進まない、という事態も生じています。これは、事業機会の損失につながるだけでなく、統合の遅れや不安定さから、従業員のモラール(士気)の低下を引き起こすケースもあり、組織全体に悪影響を及ぼすでしょう。
買収後の「立ち往生」を回避するための重要な視点
海外M&Aの成功は、まさに買収後の「組織と人事」のマネジメントにかかっていると言っても過言ではありません。特に、買収先の経営層との関係構築と、適切なガバナンス体制の確立が、その後の成否を分ける鍵となります。単に「人間関係が良い」というだけでなく、買収元が求める業績目標達成に向けたコミットメントをどう引き出すか、そしてその実行を担保するための実効性のある仕組みをどう設計するかが、初期の「立て付け」の成否を決定づけると言えるでしょう。
SNS上でも、M&A経験者からは「買収後の人事統合(PMI)が最大の難関」「カルチャーマッチを軽視すると本当に痛い目に遭う」といった意見が多く見られ、この記事で指摘されている**「停滞」**の問題は、多くの企業にとってリアリティのある課題だと受け止められているようです。M&Aは「時間を買う」ための手段ですが、その後の統合を怠れば、買収に費やした膨大なコストと時間が水泡に帰しかねません。海外での事業成長を目指す企業にとって、この「組織と人事」の課題への深い洞察と、迅速かつ着実な対策が強く求められていると言えるでしょう。
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