中国鉄鋼業が陥った大増産と業績悪化の罠!政府が警戒する「過剰生産」の真相と市場の行方

世界経済の縮図とも言える中国の鉄鋼業界が、いま大きな岐路に立たされています。2020年01月08日、中国政府は国内の鉄鋼企業による過剰な大増産に対して、いよいよ強い危機感を抱き始めました。2019年の通年では過去最高の生産ペースを記録する見込みですが、その裏側で大手各社の業績は急激に悪化しているのです。SNS上でも「これだけ作っても儲からないのは異常」「世界的な鉄冷えが再来するのでは」と、将来を不安視する声が次々と上がっています。

中国国家発展改革委員会をはじめとする監督当局は、共同で鉄鋼企業への締め付け強化を通知しました。今後3年間の設備投資計画や、高炉と呼ばれる鉄鉱石から鉄を取り出すための巨大な溶鉱炉の稼働状況を徹底的に調査する方針です。せっかく回復基調にあった鉄鋼市場が、自国内のブレーキなき増産によって再び冷え込むことを、政府は何としてでも阻止したいと考えているのでしょう。しかし、現場の企業による増産の勢いはなかなか止まりません。

数字を見れば、当局が焦る理由も頷けます。2019年10月の粗鋼生産量は前年同月比0.6%減の8152万トンと、3年半ぶりに減少へ転じました。粗鋼とは、高炉などで溶かした鉄を精錬したばかりの加工前の鋼鉄のことです。これで一息つけるかと思いきや、翌11月には4%増と再びプラスに転じてしまいました。2019年1月から11月までの累計は9億417万トンに達し、前年の同じ時期と比べて7%も増加するという皮肉な結果となっています。

不思議なことに、企業がこれほど強気に鉄を作り続けているにもかかわらず、その台所事情は火の車です。業界最大手である中国宝武鋼鉄集団の傘下、宝山鋼鉄が発表した2019年1月から9月期の決算では、純利益が88億元にとどまり、前年同期比で43%もの大幅な減益を記録しました。他の大手各社も軒並み深刻な業績悪化に追い込まれており、好景気の波が完全に去ったことは誰の目にも明らかです。

振り返れば中国政府は、2016年から2017年にかけて約1億2000万トン、2018年にも約3000万トン分の生産能力を削減してきた実績があります。さらに「地条鋼」と呼ばれる、統計に表れない違法な粗悪鉄くず製品の一掃も宣言しました。この「供給側の改革」により、中国の安価な鉄が世界に溢れて国際価格を破壊しているという海外からの非難をかわすことに成功し、2017年から2018年にかけては各社の業績も一時的にV字回復を遂げていたのです。

しかし、長引く米中貿易摩擦の影が事態を一変させました。景気減速に伴って中国国内の需要が伸び悩む中、せっかく持ち直した鉄鋼価格は再び下落を続けています。企業側は下がった単価による損失を、生産量を増やしてカバーしようと試みますが、それがさらなる供給過剰を招いて価格を下げるという、最悪の底なし沼にはまっています。この悪循環を断ち切らない限り、業界全体の健全な未来は見えてこないでしょう。

さらに状況を複雑にしているのが、最新鋭の高炉への更新ラッシュです。環境汚染の解決に向けて老朽化した高炉を閉鎖し、能力を抑えたはずの新高炉が2019年から2020年にかけて続々と稼働しています。ところが、最新設備はトラブルなくフル稼働できるため、結果として短期的には以前よりも生産効率が上がってしまうという誤算が生じました。これが現在の記録的な粗鋼生産量を押し上げる大きな要因になっているようです。

こうした矛盾を解消すべく、政府はルール違反の企業に対して、摘発を辞さない強硬な姿勢を見せ始めています。鉄鋼メーカーが集中的に拠点を置く河北省では、当局の生産制限の指示を無視した唐銀鋼鉄の幹部が2019年7月に摘発される事態も起きました。市場の健全化を急ぐお上の本気度が伺えます。国全体の景気コントロールと企業の生き残りをかけたこの攻防戦は、今後の世界市場をも揺るがす重要な局面を迎えています。

編集部としては、中国政府のこの強力な介入は、短期的な市場の混乱を防ぐためにやむを得ない措置であると考えます。企業が目先の利益に走って自滅的な増産を続ければ、2010年代半ばに起きた世界的な「鉄冷え」の二の舞になりかねません。ただし、強硬な摘発や一律の規制だけで民間企業の活力を削いでしまっては元も子もないでしょう。環境対策と経済合理性のバランスをどう取るのか、中国の舵取りに注目です。

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