日常の何気ない一コマを切り取り、観客の心を揺さぶる見事な舞台が注目を集めています。岐阜県を拠点に全国へ感動を届けている「劇団ジャブジャブサーキット」が、最新作「小刻みに戸惑う神様」を引っ提げて各地を巡回中です。今回の舞台は、地方の葬儀場にある待合室という非常に限定された空間となっています。通夜を終えてどこか落ち着かない遺族たちと、僧侶やスタッフが織りなす会話劇は、観客をまたたく間に物語の世界へと引き込んでいくでしょう。
本作は、最初から最後まで一つの場面だけで物語が展開する「ワンシチュエーション」という手法を採用しています。これは場面転換を行わず、特定の場所と時間の中で登場人物たちの心理描写や関係性を緻密に描き出す演劇のスタイルです。SNS上でも「まるで自分も同じ部屋にいるかのような臨場感がある」「リアルな会話の応酬から目が離せない」といった熱い反響が寄せられており、シンプルな設定だからこそ際立つ密度の高いドラマが大きな話題を呼んでいます。
学生時代の約束から始まった演劇への挑戦と葛藤の軌跡
この劇団を率いるのは、作・演出を手掛ける代表のはせひろいちさんです。はせさんは1985年に岐阜で劇団を旗揚げし、1989年には名古屋、さらにその2年後には東京での公演もスタートさせました。さらに1997年からは大阪も加えた3大都市での定期公演を毎年欠かさず開催しています。地方発の演劇がこれほど長期にわたり都市部で受け入れられ、愛され続けている事実は、作品の質の高さを何よりも証明していると言えるでしょう。
はせさんの演劇人生の原点は、大学時代の仲間との約束にありました。浪人時代の友人と「別の大学へ進んでも、夏休みには地元で集まろう」と誓い合い、岐阜大学教育学部へ進学した際に劇団を結成したのです。実はそれまで、はせさんは誇張されたセリフや大げさな演出が特徴的な「新劇」に違和感を抱いていました。しかし、制約の多い脚本作りの魅力に取り憑かれ、新聞社勤務を経てコピーライターとして活動しながら、演劇の道を突き進むことになります。
平田オリザ氏との出会いがもたらした革新と地方在住へのこだわり
バブル崩壊を機に演劇一本へ絞ったはせさんですが、当時はまだ自身のスタイルを模索する日々が続いていました。そんな折に演劇界の巨匠である平田オリザさんの作品「北限の猿」に出会い、衝撃を受けます。派手なダンスや歌、非現実的な演出がなくても、リアルな日常を切り取るだけで素晴らしい舞台が成立することに気づかされたのです。ここから、観客の想像力を刺激し、日常の裏にある感動を呼び起こす独自の会話劇が確立されました。
東京や大阪へ拠点を移すチャンスは何度もあったそうですが、はせさんは頑なに岐阜の地に留まり続けています。地方に暮らし、その地域の社会と密接に結びついているからこそ、穏やかで深みのある作品が生まれるのでしょう。筆者は、この「地域に根ざした視点」こそが、情報過多な現代において人々の心に深く刺さる普遍的な価値を生み出していると感じます。2020年01月10日現在も進化を続ける彼らの舞台を、ぜひ劇場で体感してください。
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