近年、日本各地を襲う豪雨災害は激甚化の一途をたどっています。こうした未曾有の危機に立ち向かうため、国土交通省は既存のインフラを最大限に活用する画期的な新制度の検討を開始しました。それは、電力会社が水力発電のために確保しているダムの貯水容量を洪水調節用に切り替えた際、減少した発電分の容量を別のダムへと移転できる「付け替え」の仕組みです。この取り組みにより、電力会社の利益を守りながら地域の安全性を高めることが期待されています。
全国にある多くのダムは、大雨を防ぐ「治水」と、発電や農業用水の確保といった「利水」の両方の役割を兼ね備えた「多目的ダム」として運用されています。しかし、新しくダムを建設するには膨大な建設費と途方もない年月が必要であり、適した立地も残りわずかという厳しい現状があります。そのため、今ある資源をいかに賢く使い回すかが防災の大きな鍵を握っているのです。ネット上でも「既存の設備を有効活用するのは合理的だ」と、政府の柔軟な姿勢を評価する声が上がっています。
しかし、これまでは発電用の水を治水へ回すことに対して、大きな障壁が存在していました。国が推進するクリーンな再生可能エネルギーである水力発電の供給量が減ってしまうだけでなく、電力会社の長期的な収益を圧迫しかねないからです。これまでは金銭による補償制度もありましたが、企業にとっては目先の現金よりも、将来にわたって電気を生み出し続けられる「発電容量(発電に回せる水の量)」を維持できる方が、はるかに価値が高いといえます。
そこで国土交通省が打ち出したのが、実質的な「現物補償」となる今回の新しい仕組みです。たとえば、ある「Aダム」で発電用の容量を削って大雨に備える空間を作った場合、その見返りとして、堤体を高くする「かさ上げ工事」などで貯水能力が増える予定の「Bダム」に、同等の発電権利を引っ越しできるようにします。異なる河川の間でのトレードも認められる方針で、利便性の高さが注目されています。
実は、現行の法律でもこのような運用は完全に禁止されていたわけではありませんでした。しかし、具体的な申請の手続きやルールが曖昧だったため、これまで実際に導入されたケースは一度もなかったのが実情です。国交省は2020年01月06日、明確なガイドラインを定めて正式に制度化する方針を固め、希望する事業者との具体的な協議を進めていくことといたしました。
SNSなどの情報発信の場では、「お互いにメリットがある素晴らしいアイデアだ」と歓迎する意見が散見される一方で、「複雑な権利の調整が本当にスムーズに進むのか」といった運用の難しさを懸念する冷静な視点も見られます。筆者といたしましては、お役所の縦割り行政の弊害を打破し、防災とエコを両立させようとするこの試みを強く支持します。気候変動による災害リスクが目前に迫る今、官民が手を取り合ったスピーディーなガイドラインの策定を期待してやみません。
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