1995年1月17日に発生した阪神大震災から25年という節目を迎えました。激しい揺れの中で言葉が通じない恐怖を味わったペルー出身の大城ロクサナさんは、自らの被災体験を原動力に、インターネットラジオを通じてスペイン語での災害情報発信を続けています。グローバル化が進む現代の日本において、言葉の壁に阻まれる在留外国人をサポートする彼女の活動は、多くの人々に安心を届けているでしょう。SNS上でも「災害時の多言語発信は本当に命の綱になる」「当事者だからこその視点に頭が下がります」と、熱い共感の声が広がっています。
2020年1月上旬のある日、インターネットラジオ局「FMわぃわぃ」のスタジオでは、大城さんがマイクに向かってスペイン語で語りかけていました。急発達した低気圧の影響で全国的に風が強まり、日本語が十分に理解できない外国人から不安を訴える声が殺到していたのです。彼女は気象庁が発表した最新の気象情報を素早く翻訳し、動画投稿サイトのユーチューブも活用して天気図を見せながら、不要な外出を控えるよう丁寧に呼びかけました。正確な情報を分かりやすく視覚的にも伝える工夫からは、利用者の不安を和らげたいという強い責任感がにじみ出ています。
日系3世の大城さんは1991年に家族と来日しましたが、1995年1月の震災当時は、日本語がほとんど分からない状態でした。避難中に理解できたのは、パトカーのスピーカーから流れる「TSUNAMI」という単語だけだったといいます。どこへ逃げれば安全なのか、どうやって情報を集めればよいのかも分からず、暗闇の中で孤立する恐怖は想像を絶するものだったでしょう。さらに避難所では「外国人の分の物資はないかもしれない」「迷惑をかけたら追い出されてしまうのでは」と恐れ、余震が続く中で車中泊を余儀なくされました。
そんな彼女の転機となったのは、震災から5年が経過した頃でした。神戸市の「たかとりコミュニティセンター」を訪れたことをきっかけに、スペイン語による電話相談のボランティアを始めます。この活動を通じて、日本で暮らす外国人がいかに情報を求めているかを痛感した大城さんは、同センターのFM番組でパーソナリティーとして歩み始めました。現在は毎週水曜日の午後7時から1時間、台風などの緊急情報だけでなく、地域のイベントや日常生活に役立つ多彩なトピックを国内外のリスナーに向けて届けています。
大城さんの熱意はラジオの電波を越え、文字としての支援にも広がりました。日本で暮らす外国人の交流を促す団体の代表も務める彼女は、2018年にスペイン語版の「防災ガイド」を制作したのです。この冊子は27都道府県の外国人に計1万冊が配布されました。冊子の中では、地震の揺れの大きさを表す「震度」と、地震そのものの規模やエネルギーを示す「マグニチュード」という、混同しやすい専門用語の違いを分かりやすく解説しています。専門的な概念を噛み砕いて教えるアプローチは、防災の第一歩として非常に有効です。
さらに防災ガイドでは、将来的な発生が危惧される南海トラフ地震の危険性や、いざという時の避難行動も網羅されています。大城さんは、もし大災害が起きれば自分たち自身も発信できなくなる可能性があると指摘します。だからこそ、普段から災害に対応できる基礎知識を学び、自分の命は自分で守る力を身につけてほしいと願っているのでしょう。SNSでも「言葉がわからない国での災害は想像以上に怖い、このガイドは本当に貴重だ」といった称賛が集まっており、彼女の地道な草の根活動が確かな実を結んでいることが伺えます。
急増する在留外国人と多言語防災の重要性
大城さんが被災した1995年当時と比べ、現在の日本を取り巻く環境は大きく変化しました。グローバル化の進展に伴い、日本で生活を営む外国人の数は驚くべき勢いで増加しています。法務省入国管理局が2019年10月に発表した統計によると、2019年6月末時点の在留外国人数は282万9000人に達し、過去最高を記録しました。大阪府に約24万7000人、兵庫県に約11万2000人、京都府に約6万2000人が暮らしており、この近畿3府県だけで全体の約15%を占めているのが現状です。
2014年の在留外国人数が212万1000人であったことと比較すると、わずか5年間で約1.3倍にまで急増した計算になります。2019年4月には外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が施行されたため、今後も日本で暮らす外国人はさらに増えていくでしょう。また、2020年7月からの東京五輪・パラリンピックや、2025年に控える大阪・関西万博などに向けて、多くの訪日外国人が日本を訪れることが予想されます。こうした背景から、官民が連携した多言語での情報発信が今まさに急務となっています。
日本は災害大国であり、いつどこで大規模な地震や台風に見舞われるか分かりません。そうした中で、言葉が壁となって避難が遅れたり、避難所で孤立したりする人々を一人も出さない社会づくりが求められています。大城さんのように、自らの痛みを誰かの安心へと変える先駆的な取り組みは、行政の施策だけに頼らない民間コミュニティの強さを示しているでしょう。私たちは彼女の活動から学び、言葉の異なる隣人たちと共に生き、共に守り合う「共助」の体制を、地域社会の中で日常から育んでいくべきです。
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