年間3300億円の医療費を救う!?SNSでも話題の「節薬バッグ運動」がもたらす驚きの効果と知っておきたい注意点

ついついやってしまいがちな薬の「飲み忘れ」ですが、実はその裏で、巨額の医療費が失われていることをご存じでしょうか。いま全国の自治体や薬局で、自宅に眠っている余った薬を回収して再活用する「節薬バッグ運動」という取り組みが大きな広がりを見せています。

この活動は、薬局で患者に専用の回収袋を配布し、自宅で余ってしまった薬を持参してもらうというものです。集まった薬は薬剤師が確認し、新しく処方されたものと同じであれば、医師の許可を得た上で処方量を調整します。無駄をなくす画期的なアイデアとして、今注目を集めています。

ネット上でもこの取り組みへの関心は高く、SNSでは「知らなかった!実家の引き出しに大量にあるから持っていこう」「医療費の削減に個人で貢献できるのは素晴らしい」といった前向きな声が続々と上がっています。誰もが手軽に始められる社会貢献として、好意的に受け止められているようです。

2019年7月20日からは、東京都葛飾区薬剤師会が区と連携して「残薬調整支援事業」をスタートさせました。区内にある会員薬局の半数以上となる約90軒がこの事業に参加しており、2019年11月20日までの集計では、1カ月あたり40万〜50万円ほどの薬剤費を減らすことに成功しています。

このペースを維持できれば、年間で500万円を超える削減につながる見込みです。同薬剤師会の秋山宗一郎副会長は、薬局で薬の相談をするという意識が地域に浸透しつつあることに手応えを感じており、今後はさらにこの輪を広げていきたいと熱い意気込みを語っています。

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なぜ薬が余ってしまうのか?生活習慣病に潜む落とし穴

そもそも、なぜこれほど多くの薬が余ってしまうのでしょうか。2017年4月1日から「節薬バッグ事業」を導入している埼玉県所沢市では、明治薬科大学などと共同で2年間にわたる調査を実施しました。その結果、残薬の原因として非常に興味深いデータが明らかになっています。

2018年度の調査によると、薬が残る原因の第1位は「飲み忘れ」で45%を占め、次いで患者自身の判断で飲むのをやめてしまう「自己調節」が18%という結果でした。特に高血圧症をはじめとする生活習慣病の薬において、この傾向が顕著に見られることが分かっています。

所沢市国民健康保険課の森田英明課長は、生活習慣病は自覚症状がないまま静かに進行するため、患者の危機感が薄れがちになり、結果として飲み残しにつながっているのではないかと推測しています。体調が良いからと自己判断で服用を止めるのは、非常に危険な行為だと言えます。

さらに、複数の病院や薬局を利用している患者ほど、管理が行き届かずに薬を余らせてしまうケースが目立ちます。こうした事態を防ぐためにも、薬の処方量や相性をいつでも気軽に相談できる「かかりつけ薬局」を身近に作っておくことが、健康を守るためにも極めて重要です。

膨らむ国民医療費と、国が打ち出す次なる一手

この運動が日本各地で本格化している背景には、深刻化する国家の財政問題が潜んでいます。厚生労働省の発表によると、2017年度の国民医療費は約43兆円に達しており、そのうち薬局での調剤にかかった費用は2割弱にあたる7.8兆円を占めているのが現状です。

この調剤費は過去15年間で約2倍に膨れ上がっており、国としても一刻も早い対策を迫られていました。そこで政府は2012年に調剤報酬の改定を行い、薬剤師が患者の服薬履歴を記録・管理する「薬剤服用歴管理指導料」の項目に、飲み残しの有無を確認することを義務付けました。

しかし、制度開始から半年後に製薬大手のファイザー日本法人が行った調査では、実際に薬局で残薬の確認をしてもらったと答えた患者はわずか24%にとどまりました。制度を作っただけでは現場への浸透が難しく、医療費削減の効果も十分に発揮されなかったという苦い過去があります。

そうした中で期待を集めているのが、九州大学大学院の島添隆雄准教授が導き出した試算です。2012年から全国に先駆けて運動を始めた福岡市薬剤師会などのデータを分析したところ、この活動が全国に普及すれば、年間で3300億円もの薬剤費を削減できる可能性があることが分かりました。

福岡市での調査では、回収された薬の約8割を再利用することに成功しており、処方箋1枚あたり平均で2700円の無駄を省いています。島添准教授は、患者自身の経済的負担が軽くなるだけでなく、「自分が医療費の削減に役立っている」という誇りが住民の間に生まれていると語ります。

持ち込む際の注意点と、高額な「抗がん剤」が抱える課題

ただし、自宅にある薬なら何でも再利用できるわけではありません。薬は湿気や高温に非常に弱く、たとえ使用期限内であっても、保管状態が悪ければ成分が変化してしまう危険性があります。日本薬剤師会の安部好弘副会長は、劣化によって毒性を持つリスクについて警鐘を鳴らしています。

未開封の薬であっても傷んでいる可能性があるため、自己判断で服用を再開することは絶対に避けなければなりません。少しでも迷った場合は、まずは専門家である薬剤師に相談することが鉄則です。安全性が確認できて初めて、この運動は本当の意味で価値を持ちます。

また、残薬の問題は一般の内服薬だけにとどまりません。日々進化を遂げている「抗がん剤」の世界では、さらに深刻な事態が起きています。慶応義塾大学の岩本隆特任教授の試算によると、2017年6月までの1年間に国内で販売された注射タイプの抗がん剤のうち、廃棄額は738億円に上ります。

抗がん剤の投与量は患者の体格に合わせて厳密に計算されるため、瓶に残った薬剤は細菌汚染を防ぐ目的で大半が捨てられています。米国のように無菌状態を保ったまま分割使用する仕組みが日本でも普及すれば、高額な新薬による医療費の爆発的な増加に歯止めをかけられるはずです。

編集部の視点:医療の未来を守るために、私たちができること

この「節薬バッグ運動」は、単なるお財布に優しい節約術ではなく、日本の医療制度の崩壊を防ぐための画期的な草の根運動であると感じます。私たちは、病院から処方された薬を「当たり前の権利」として受け取っていますが、その財源が有限であることを忘れてはなりません。

「もったいない」という日本古来の美しい精神を医療の現場に持ち込むことで、国の財政を救い、巡り巡って未来の私たちが受ける医療の質を維持することにつながります。まずは自宅の薬箱を点検し、余った薬を持って近くの薬局へ足を運ぶことから始めてみてはいかがでしょうか。

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