日本を代表する文豪、三島由紀夫がかつて「空飛ぶ円盤」に並々ならぬ情熱を注いでいたことをご存じでしょうか。SF小説の傑作『美しい星』は、自らを宇宙人と信じる家族が地球を救うために奮闘する奇想天外な物語です。
作中で一家が円盤の到来を待ち受ける重要な舞台が、埼玉県飯能市に実在する「天覧山(てんらんざん)」です。SNS上でも「三島由紀夫がUFO研究会に入っていたとは意外」「聖地巡礼をしてみたい」と、文学ファンの間で大きな話題を呼んでいます。
三島由紀夫は1925年1月14日に生まれ、1970年11月25日に波乱の生涯を閉じた稀代の作家です。彼は1961年ごろから宇宙への関心を急速に深め、実際に飯能市で行われた円盤観測の会合にまで足を運んで熱心に取材を重ねました。
緻密な現地調査に基づいた『美しい星』は、1962年1月から11月にかけて文芸誌に連載されました。物語に登場する大杉一家の足跡をたどると、当時の飯能の街並みが驚くほどリアルに描き出されていることが分かります。
作中に登場するレトロな街並みと現在の姿
主人公の一家は、自家用車で羅漢山(現在の天覧山)を目指す途中に「商工会議所の前をとおって右折」します。この織物協同組合の建物を間借りしていた旧商工会議所は、大正時代に建てられた風情ある木造建築で、現在は国の登録文化財として大切に保管されています。
さらに車を進めると、1957年に落成した「新しい公会堂の前」に到着します。時の流れとともに公会堂そのものは姿を消し、現在は少し離れた場所に市民会館が建てられましたが、かつての跡地には今も鉄腕アトムの銅像が静かに佇んでいます。
ここから一家は、標高197メートルの低山である天覧山へと登っていきます。三島が「昼間なら子供でも登れる」と表現した通り、普段着でも気軽にハイキングを楽しめる親しみやすい山道ですが、山頂に近づくにつれて斜面は急に険しさを増していきます。
作中で「岩だらけの地面」と描写された山頂の展望台は、小説が単行本化された翌年の1963年春に拡張工事が行われました。当時の地元紙には団体客の増加に対応するためと記録されており、三島文学の熱狂的なファンが押し寄せた名残が窺えます。
宇宙との交信を予感させる絶景のパノラマ
南側に大きく開けた現在の山頂からは、右手に雪をまとった美しい富士山、左手には遥か彼方に東京の高層ビル群や東京スカイツリーの銀色のシルエットを一望できます。遮るもののないこの大パノラマは、まさに宇宙とのつながりを感じさせる特別な空間です。
SNSでは「天覧山からの夜景を見て、三島がここに円盤を夢見た理由が分かった気がする」という声も上がっています。眼下にきらめく街の明かりを見下ろしていると、夜空の彼方から本当に未知の飛行物体が舞い降りてくるかのような錯覚にとらわれます。
作中では、火星や木星など別々の星から来た大杉一家と、人類滅亡を企む別の一派との間で、地球の運命を懸けた壮大な論争が繰り広げられます。冷戦下の人類破滅の危機を見つめた三島の鋭い視線は、この飯能の夜空の下で研ぎ澄まされたのでしょう。
文学の香りが色濃く残るハイキングコースを歩き、山頂で星空を仰ぎ見てはいかがでしょうか。ふと見上げた夜空に白く輝く光を見つけたとき、それは果たしてきらめく金星なのか、あるいは私たちが待ち望んだ宇宙の友人の船なのかもしれません。
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