日本の製薬最大手である武田薬品工業が、いよいよ2021年度からワクチンのグローバル展開へ舵を切ります。今回の戦略の核となるのが、同社が独自に開発を進めているデング熱の画期的な新薬です。2019年に巨額の費用を投じて買収したアイルランドの製薬大手・シャイアー社の強固な流通ネットワークを存分に活用し、これまで欧米勢が独占していた巨大な市場へ風穴を開ける構えを見せています。
ワクチンビジネスは、莫大な設備による大量生産と広範な販売網が必要不可欠な分野です。そのため、これまでは欧米のメガファーマ(巨大製薬企業)が圧倒的なシェアを誇り、日本企業がその牙城を崩すことは困難とされてきました。日本勢として史上初となるこの壮大な世界販売への挑戦に対して、SNS上でも「日本の製薬技術が世界を救う一歩になる」「シャイアー買収の真価が問われる大きな勝負だ」と、期待に満ちた声が数多く寄せられています。
急成長を遂げる世界のワクチン市場と欧米4強の壁
イギリスの調査会社であるエバリュエートのデータによると、2018年における世界のワクチン市場は305億ドル、日本円にして約3兆3500億円という巨額の規模に達しています。さらにこの市場は毎年7%近い驚異的なペースで成長を続けており、2024年には448億ドルまで膨らむ見通しです。これは数ある疾患領域の中でも、抗がん剤などに次いで世界第4位の規模を誇る超巨大マーケットと言えます。
しかし、この魅力的な市場はアメリカのメルクやフランスのサノフィをはじめとする欧米の有力企業4社が、実に8割以上のシェアを牛耳っているのが現状です。ワクチンは一度現地政府の承認を獲得して供給ルートを確保できれば、長期にわたって極めて安定した収益と成長が見込める特権的なビジネスでもあります。だからこそ武田薬品工業は、この厚い壁に挑む価値があると判断したのでしょう。
世界を救うデング熱ワクチンと武田薬品の未来図
今回の世界進出の切り札となるデング熱は、主に蚊が媒介することで激しい頭痛や高熱を引き起こすウイルス性の感染症です。年間で約4億人が感染し、命を落とす人が2万人にものぼる深刻な熱帯病ですが、武田薬品工業は世界初となる「4歳以上の幼児から使用できる」安全性の高いワクチンを開発しています。同社は2020年度中に中南米での承認申請を目指しており、これが無事に発売されれば年間1000億円を超える大ヒット商品になるでしょう。[/p>
現在、武田薬品工業が手掛けるインフルエンザや風疹のワクチンは国内販売に留まっており、その売上高は数百億円規模に過ぎません。しかし、今回のデング熱ワクチンに加え、現在開発を進めている手足口病向けなど3種類の新薬が軌道に乗れば、中期的な売上高は3000億円規模にまで跳ね上がります。これは同社全体の売上高を約1割も押し上げる計算となり、企業の成長を牽引する新たな柱になることは間違いありません。
私は今回の挑戦について、日本の創薬力が世界規模で認められる記念碑的な出来事になると確信しています。これまで「内弁慶」と揶揄されることもあった日本のワクチン事業が、シャイアー社のグローバルな販路という武器を得て世界へ羽ばたく姿は、日本の産業界全体に大きな勇気を与えてくれます。世界中の人々の健康を守りながら、日本企業としての強みを発揮していく武田薬品工業の今後の動向から、目が離せません。
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