青い海に囲まれた静岡県西伊豆町の田子地区は、かつて多くの鰹漁船で活気に満ちあふれていました。現在は漁こそ行われていませんが、この地に伝わる伝統的な保存食が今、SNSを中心に「白米の最高のお供」として再び注目を集めています。
その主役こそが、鰹を塩漬けにして乾燥させた「しおかつお」です。ネット上では「強烈な塩気の中に凝縮された旨味がクセになる」「一切れでご飯が無限に食べられる」といった熱い声が飛び交っており、現代人の食欲を刺激してやみません。
この伝統の味を守り続けているのが、1882年創業の老舗「カネサ鰹節商店」です。5代目の芹沢安久さんは、仲間とともに「西伊豆しおかつお研究会」を立ち上げ、地域の食文化を未来へつなぐ活動に尽力されています。伝統をただ残すだけでなく、現代の食卓へと届ける情熱には本当に頭が下がります。
2020年01月11日現在、同店では新春を迎えるための美しい「正月魚(しょうがつよ)」の飾り付けが行われています。これは鰹を藁で装飾するもので、家内安全や子孫繁栄への祈りが込められた新年の正装です。かつては神棚へ供えられていましたが、現代では玄関に吊るす家庭が増えています。
この逸品は、新鮮な鰹の内臓を丁寧に取り除き、お腹に塩を詰め込むことから始まります。大量の塩と共に水槽で約2週間漬け込んだ後、綺麗に水洗いをして竹製のやぐらで約3週間陰干しします。ここで重要となるのが、西伊豆名物の強い冬の西風です。
天日干しをすると脂が酸化して品質が落ちる「脂焼け(あぶらやけ)」という現象が起きてしまいます。それを防ぎ、表面を美しく仕上げるために、あえて冷たい季節風による陰干しを選択しているのです。先人の知恵が詰まったこの製法には、思わず感嘆させられます。
極上のしょっぱさが生む至福の味わい方
じっくり仕上げられた身を炙って口に運ぶと、想像を超える強烈な塩気が突き抜けます。しかし、その奥から溢れ出す濃厚な魚の風味は、一度体験すると病みつきになる味わいです。この美味しさを現地で堪能できる名店が、網焼きで人気の「海鮮焼かねじょう」です。
同店では、店主の浅賀丈吉さんが目の前で炙ってくれた切り身を細かくほぐし、ご飯にのせて提供してくれます。濃厚な生卵やワサビ、削りたての鰹節を豪快に混ぜ合わせれば、塩味がまろやかに変化して箸が止まらなくなります。
さらに残りの身はお茶漬けとして楽しむことができ、1杯で2度美味しい贅沢な仕掛けになっています。こうした郷土の味を、手頃な価格でお腹いっぱい満喫できるのは、旅の醍醐味と言えるでしょう。
また、地元の食事処「喜久屋」では、しおかつおの粉末を使った特製うどんが評判です。ネギやカマボコ、さらに追い鰹節を効かせた出汁と絡めて啜る一杯は、さっぱりとした中に奥深いコクを感じられます。
地域の宝である伝統食材を、現代風のメニューへと昇華させて楽しませる地元の工夫には、深い愛着と誇りを感じずにはいられません。西伊豆の豊かな自然と風土が育んだ奇跡の味を、ぜひ現地で体感してみてください。
コメント