2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックを目前に控え、東京都心の不動産市場はかつてないほどの熱気に包まれています。各地で大規模な再開発が次々と進む中、今後のオフィス需要や街の価値がどのように変化していくのか、業界内外から熱い視線が注がれている真っ最中です。SNS上でも「これだけビルが建って本当に埋まるのか」「五輪後の反動が心配」といった、期待と不安が入り混じった声が数多く飛び交っています。
こうした世間の疑問に対して、都市開発の大手である森トラスト株式会社の伊達美和子社長は、非常に力強く前向きな見通しを示してくださいました。2019年12月時点における都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)のオフィス空室率は、なんと1.55%という驚異的な低さを記録しています。過去最低水準を更新し続けるこのデータは、世間の予想を遥かに超えて東京のオフィス空間が圧倒的に不足している現状を物語っているでしょう。
かつて市場では、2018年から2020年にかけてビルが立ち並ぶことによる「供給過剰」を懸念する声が上がっていました。しかし蓋を開けてみれば、新築ビルはどこも満室に近い状態でスタートを切り、既存のビルから企業が移転した後にできる「二次空室」もほとんど目立っていません。オフィスの平均賃料は72ヶ月連続で上昇を維持しており、この安定した右肩上がりのトレンドは当面の間、堅調に維持されるとみられます。
注目プロジェクト「東京ワールドゲート」と驚異の満室稼働
森トラストが満を持して2020年3月に港区神谷町に完成させるのが、今年最大級のオフィス供給となる大規模複合施設「東京ワールドゲート」です。その中核を担う「神谷町トラストタワー」には、日本のビジネスを牽引するそうそうたる企業が名を連ねています。本社ビル建て替えに伴い入居する伊藤忠商事を筆頭に、日本たばこ産業(JT)やアメリカン・エキスプレス・インターナショナルなどのグローバル企業が参入を決めました。
さらに、近年新しい働き方として世界中で注目を集めているコワーキングスペース(共有型のオフィス空間)を展開する「ウィーワーク(WeWork)」の入居も確定しています。こうした強力なテナント誘致の成功により、同ビルは開業時点でほぼ満室という、素晴らしいスタートダッシュを切る見込みです。伊達社長の言葉を借りれば、オリンピックという国際イベントは東京のブランド力を高める絶好の機会に過ぎません。
仮に五輪関連のオフィス需要が一時的に引いたとしても、市場全体への影響は極めて軽微であると判断できます。多くの企業が事業拡大に伴うスペースの拡張を熱望しており、その根強いニーズは少なくとも2022年頃まで東京の不動産市場を支え続けるはずです。私個人の見解としても、単なるイベント特需に依存しない構造的な需要の強さこそが、現在の東京が持つ本当の強みであると感じています。
インバウンドと高級ホテルの相乗効果がもたらす街の吸引力
東京ワールドゲートのもう一つの目玉は、日本初上陸となる世界的なラグジュアリーホテルブランド「エディション(EDITION)」の誘致に成功した点でしょう。オフィスの賃料が上昇し始めた時期は、日本を訪れる外国人旅行者であるインバウンド(訪日外国人)の急増期と見事に合致しています。ビジネスの活気がある場所にこそ、世界中から優秀な人材や投資家が集まるのは自然な摂理と言えます。
「カンファレンス(大規模な国際会議や研究発表会)に出席するついでに、日本の観光も楽しもう」というビジネス富裕層を取り込む戦略は、これからの都市開発に不可欠です。1つの先進的なビルの中に洗練されたオフィスと最上級のホテルが同居すれば、入居企業の出張者をスムーズに迎え入れられるだけでなく、格調高い会議や会食の場としても機能します。この圧倒的な利便性こそが、エリア全体の価値を引き上げるのです。
現在、東京の最高級クラスのホテル客室稼働率は80%前後という非常に高い水準をキープしており、宿泊単価も世界の主要都市に引けを取らないレベルへ向上しました。ようやく世界のトップランナーと肩を並べる「健全な市場」へと成長を遂げたと言えます。観光とビジネスが美しいシナジー(相乗効果)を生み出すことで、神谷町というエリアは国際色豊かな新たなビジネス拠点へと生まれ変わるでしょう。
市場の懸念材料とこれからのオフィスのあり方
もちろん、バラ色の未来ばかりではなく、足元にはいくつかの警戒すべきリスクや課題も横たわっています。地価の高騰に加え、建設資材費や人手不足に伴う人件費の上昇によって、ビルの開発や日々の運営コストは以前よりも確実に膨らみました。幸いにも、日本国内では異次元の低金利政策が継続しているため、資金を調達するための環境自体は決して悪くありません。
これから数ヶ月の間で金利が急激に跳ね上がる可能性は極めて低いとみられますが、混迷を極める世界情勢が国内景気に落とす影については、慎重に見守る必要があります。また、総務省の労働力調査が示す通り、東京都の就業者数は2011年から右肩上がりで増え続けており、これがオフィス需要のガソリンとなってきました。ただ、バブル期のような狂乱的な賃料高騰とは異なり、現在の上昇ペースは非常にマイルドです。
オフィス仲介大手の三幸エステートなどは、五輪後に景気の足踏み感が強まり、新築ビルへの大移動が起きることで既存ビルの空室率が緩やかに上がると予測しています。確かにテナント企業の家賃支払い能力にも限界はありますが、これからは単に床を貸すだけでなく、企業の生産性を高める付加価値を提供できるビルだけが生き残る時代です。挑戦を続ける森トラストの手腕に、今後も目が離せません。
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