大手総合商社として知られる伊藤忠商事が、これまでの常識を覆す大胆な組織改革に乗り出しました。その中核を担うのが、2019年7月1日に新設されたばかりの「第8カンパニー」です。わずか44人という少数精鋭で構成されており、メンバーの平均年齢は30代という驚きの若さとなっています。数百人規模を抱える他カンパニーとは一線を画し、次世代のビジネスモデルを生み出すための特命組織として大きな期待を集めているのです。
この組織の最大の特徴は、従来の縦割り社会である「ヒエラルキー型」を排除した点にあります。役職による階層をなくし、案件に応じて俊敏に動ける「アジャイル型」と呼ばれるフラットな組織体制を導入しました。アジャイルとは「機敏な」という意味を持つ言葉で、システム開発などでよく使われる手法です。ビジネス展開においても、あらかじめ完璧な計画を立てるのではなく、状況に合わせて柔軟に計画を変更しながら前進する強みを持っています。
SNS上でもこの取り組みは大きな話題を呼んでおり、「大企業がここまでドラスティックに変われるのは凄い」「若手に裁量を持たせる姿勢に共感する」といったポジティブな声が多数寄せられていました。デジタル戦略を担当する中元寛氏も、リスクを最小限に抑えながら素早く新サービスを立ち上げ、消費者の意見を反映して高速で改善していく重要性を強調しています。岡藤正広会長CEOも背中を押しており、現場の挑戦を会社全体で応援する風土が魅力的です。
一般的に大企業は、プロジェクトの開始前に完璧な青写真を求めがちではないでしょうか。しかし、納得のいくまで時間をかけていては、激変する市場での商機を逃してしまいかねません。経営企画室長の向畑哲也氏が語るように、仮説が間違っている可能性を視野に入れつつ「動きながら考える」姿勢こそが、今の時代に最も求められているはずです。失敗を恐れて停滞するよりも、挑戦を繰り返すことでしか得られない果実があるのだと強く実感させられます。
徹底的に数字にこだわる文化を持つ同社ですが、この新しい組織の立ち上げにおいては、評価制度そのものまで進化させています。なんと今期は、業績などの数値目標ではなく、行動やプロセスを重視する定性的な目標の評価を引き上げました。他社への影響度や挑戦する姿勢、そして「情報の獲得・発信力」という3つの指標を試行しています。これにより、自身のプロジェクトに閉じこもることなく、常に社会の変化にアンテナを張る仕組みが整えられました。
実は、このような危機感を持って自らの殻を破る経営スタイルは、同社が創業当時から受け継いできた伝統的な遺伝子でもあります。1920年の戦後不況によって深刻な経営危機を迎えた際、二代目伊藤忠兵衛は一族の私財を投げ打つ覚悟を示しました。それと引き換えに金融機関からの支援を取り付け、事業の縮小や貿易部門の切り出しといった大改革を断行したのです。さらに役員の平均年齢を35歳まで若返らせて未来を託した歴史は、まさに現代の姿と重なります。
現在、米国のアマゾン・ドット・コムが主導するネット通販の脅威に対し、小売業界全体が激しい危機感を募らせています。しかし同社は、ネット上のデータと、実店舗でのビジネスはまだ完全に融合しきっていないと冷静に分析しているのです。竹下誠一郎ゼネラルマネジャーは、話題の無人店舗が本当に消費者にとっての正解なのかを見極めようとしています。豊富なリアルの顧客接点を持つ同社だからこそ、消費者が本当に求める価値を形にできるはずです。
プレジデントの細見研介氏は、「固定化しない」ことの重要性を説いています。名前にあえて取扱商品を入れず「第8」という数字にしたのは、業種に縛られず変化へしなやかに対応するためです。また、「8」という数字を横に寝かせると「∞(無限)」の記号になる点も、非常にロマンを感じるエピソードでしょう。消費者の視点を起点にビジネスを構築する「マーケットイン」の発想を武器に、無限の可能性を切り拓く彼らの真価から目が離せません。
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