日本のものづくりを揺るがした品質データ改ざん問題から、月日は流れました。2019年11月20日現在、不正の舞台となった神戸製鋼所や三菱マテリアルは、失った信頼を取り戻すべく大規模な改革に乗り出しています。その中核を担うのが、IT技術を駆使した「検査の自動化」です。人の手による介在を極限まで減らすことで、データの書き換えを物理的に不可能にする仕組み作りが急ピッチで進められています。
SNS上では「ようやく機械化されるのか」「遅すぎた対応だが、やらないよりはマシ」といった厳しい声がある一方で、「日本の製造業が再生するための試金石になる」と期待を寄せる意見も見受けられます。現場の努力をデータ化し、透明性を高めるこの試みは、単なる不正防止の枠を超え、次世代のスマート工場へと進化する重要なターニングポイントになるのではないでしょうか。
人の手を介さない「QRコード管理」が不正の芽を摘む
栃木県真岡市にある神戸製鋼の真岡製造所では、かつての光景が一変しています。以前は作業員がサンプルの番号を手入力していたため、基準に満たない数値が出ても後から修正できてしまう隙がありました。しかし現在は、サンプルに刻印されたQRコードですべてを管理しています。検査装置に一度投入すれば、結果は自動でシステムへ転送され、人間が数値を操作する余地は一切ありません。
ここで注目すべきは「性善説」からの脱却です。従業員を疑うのではなく、そもそも「不正ができない仕組み」を構築することが、結果として現場を守ることにつながります。山口貢社長は、材料開発に用いているAI(人工知能)の導入も示唆しており、画像分析によって品質のわずかなバラつきを瞬時に検知する、より高度な管理体制の実現を目指しているようです。
三菱マテリアルもまた、2021年3月期までの3年間で100億円規模の巨額投資を計画しています。小野直樹社長は、年間約20億円を検査の自動化に充てると明言しました。対象となる検査機器は5400件にも及び、素材メーカー特有の複雑な品質管理を機械の目によって厳格化しようとしています。組織的な隠蔽が長年続いてきた過去を断ち切るには、これほど徹底したシステム更新が必要不可欠なのです。
企業風土の刷新と「実力の見える化」が真の解決策
ただし、機械を導入すればすべてが解決するほど問題は単純ではありません。神戸製鋼の過去を振り返ると、再発防止策が形骸化し、不正が繰り返されてきた歴史があります。その背景には、現場の実力を超える厳しい納期や品質要求を無理に飲み込んでしまう企業風土がありました。どんなに優れた装置を導入しても、無理なノルマが現場を圧迫し続ければ、また別の形で歪みが生じてしまうでしょう。
この根本的な課題に対し、神戸製鋼は現場の生産能力を「見える化」する新たな取り組みを開始しました。自社の実力を数値化し、一部を顧客と共有することで、無理な受注を抑止する狙いです。2020年3月期の最終損益は50億円の赤字が見込まれるなど、経営状況は依然として厳しい状況にあります。しかし、真の信頼回復には、こうした「痛みを伴う透明性の追求」こそが求められています。
個人的な見解を述べれば、この自動化への投資は「コスト」ではなく、日本のブランドを再構築するための「再建費」と捉えるべきです。数字をごまかして短期的な利益を守る時代は終わりました。技術力に裏打ちされた「正当なデータ」こそが、世界市場で再び日本製品が輝くための唯一の武器になるはずです。時間はかかるかもしれませんが、彼らの改革が製造業全体のスタンダードになることを願ってやみません。
コメント