医療テックの未来を切り拓く!テルモが仕掛ける「データ活用」の革新と世界戦略【佐藤社長インタビュー】

日本の医療機器業界を牽引するテルモの勢いが、今まさに止まりません。心臓や脳の血管治療に使用するカテーテルと呼ばれる医療用細管の事業が非常に絶好調です。2019年度の上期決算においては、売上高と営業利益がともに過去最高を記録しました。このまま順調に推移すれば、通期での業績は医療機器業界において実に7年ぶりとなる国内トップの座が射程圏内に入っています。

しかし、同社が目指す頂点はさらに高い場所にあります。佐藤慎次郎社長は、今後のさらなる持続的成長を達成するためには、最新データを駆使した予防や診断といった新しいビジネスの開拓が極めて重要になると分析しています。SNSなどでは「日本のモノづくり企業がデータ社会でどう戦うのか気になる」と、その次なる一手へ多くの期待が寄せられている状況です。

現在、医療の世界でも急激なIT化が進んでおり、GAFAと呼ばれる米国の巨大IT企業の台頭が目立ちます。これに対し佐藤社長は、自分たちの確固たる強みを見極めることが肝要であると冷静に語りました。病院などの現場で培った深い専門知識や医療機関との強固な信頼関係において、一日の長があるのは間違いなくテルモの方だからです。

データ分析に長けた企業は世の中に多く存在するものの、実際の命を救う本格的な医療へのデータ活用となれば、テルモが持つ知見が最大限に生かされます。画像診断や血液関連の装置、そして人工肺と呼ばれる体外で血液に酸素を補給する装置に蓄積される貴重なデータを解析することで、医療機関に対して治療効果やコスト削減の観点から革新的な提案が可能になるでしょう。

これまでは使い切りの医療機器を販売するビジネスが中心でしたが、データと融合させることでこれまでにない新しい価値が生み出されます。消耗品の販売効率だけで利益を上げる従来のビジネスモデルから脱却し、継続的に価値を提供する次世代の収益構造が構築されつつあります。このような変革は、激変する医療環境で生き残るために必須の戦略といえます。

2017年度から2021年度までの中期経営計画も、現在はちょうど折り返し地点を迎えました。以前はカテーテル事業に依存しがちな体質が見られましたが、現計画の期間内では3つの社内カンパニーがそれぞれバランスよく利益を伸ばしています。特に心臓血管事業は、2016年度に実施した3つの企業買収の効果が綺麗に現れた形です。

なかでも、脳血管の治療器具を専門とするアメリカのシークエント・メディカル社の買収は、短期間での事業立ち上げに成功しました。これは同社の歴史的なM&Aにおける最も見事な成功事例として挙げられます。さらに病院向けのホスピタル事業では、医薬品と投与器具を最初からセットにして受託製造するビジネスが年200億円規模にまで拡大しました。

2020年度に向けて、テルモは組織の「変化と活性」をスローガンに掲げてさらなる進化を模索しています。これまでは独立性の高かった3つのカンパニーが、組織の垣根を越えて連携を開始しました。これにより、企業の総合力を最大限に発揮する体制が整いつつあります。今後は日本のお家芸である高度な生産技術に、デジタル技術をいかに融合させるかが問われます。

今後のM&Aに関しては、これまでのアメリカ中心のカテーテル分野への集中投資から方針を転換し、世界中のあらゆる地域を対象にする意向です。2018年に中国のエッセン・テクノロジー社を買収したことを足がかりに、今後は成長著しい新興国の企業も視野に含めます。現在の強固な財務基盤があれば、10億ドルを超えるような超大型の買収案件も十分に実施できるでしょう。

一方で、競合他社を見渡すと、ドイツのシーメンスヘルスケア社がカテーテルの遠隔操作技術を持つ企業を買収するなど、医療のデジタル化の波は急速に押し寄せています。テルモも人工知能(AI)を活用して、カテーテル治療時の画像診断や最適な器具選定をサポートする画期的なシステムの開発を精力的にスタートさせました。

同社はアメリカのベンチャーキャピタルへ出資を行うなど、最先端の技術を持つスタートアップ企業の取り込みにも極めて積極的です。優れた買収手腕に定評があるテルモですが、まだ明確な勝者が決まっていないデジタル医療の領域において、真に価値のある技術を見極める高度な「目利き力」が、これからの未来の成否を分けることになるはずです。

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