日本政府が科学技術政策の新たな主軸として「イノベーション創出」を掲げたことで、多くの関心が集まっています。この方針転換は、日本の研究力を再び世界トップレベルへと引き上げる起爆剤になるのでしょうか。それとも、やり方を誤ればさらなる地盤沈落を招く諸刃の剣となるのでしょうか。未来への羅針盤となる重要な岐路に、私たちは今まさに立っていると言えるでしょう。
SNS上では、この方針に対して「日本の基礎研究の底上げに繋がってほしい」という期待の声がある一方で、「目先の成果ばかりが優先され、地道な研究が軽視されるのではないか」といった不安の声も目立ちます。国を挙げた一大プロジェクトだからこそ、国民の関心も非常に高まっているようです。
過去の反省から学ぶボトムアップ型研究の重要性
政府は2021年度から5年間の国家戦略となる「第6期科学技術基本計画」の策定に向け、総合科学技術・イノベーション会議での本格的な議論をスタートさせました。年内の完成を目指すこの計画ですが、過去25年間の「科学技術創造立国」としての歩みを冷静に振り返る必要があります。これまで国主導で特定の分野に資金を集中させるトップダウン方式を採用してきましたが、残念ながら期待されたような革新的な成果はほとんど生まれませんでした。
リチウムイオン電池やがんの免疫治療薬、青色LEDといった世界を変えた技術は、すべて研究者の純粋な好奇心や発想から生まれた基礎研究、つまり「ボトムアップ型」の研究が源流にあります。国がテーマを決めるのではなく、多様な研究の芽が自然に育つような豊かな土壌を整えることこそが、本来の国の役割ではないでしょうか。画一的な予算配分ではなく、大学がじっくりと知の探求に没頭できる環境を取り戻すことが何よりも急務だと私は考えます。
「コト」モデルへの転換とスタートアップが超えるべき壁
現代のデジタル社会においてイノベーションを起こすためには、従来の製品作りにこだわる「モノ」の視点から、新たな価値や体験を生み出す「コト」の視点へと発想を切り替えることが求められます。そのためには、大学や研究機関が持つ高度な知識と、産業界の実行力を結びつける産学連携の強固なプラットフォーム作りが欠かせません。
また、今回の計画では大学発のベンチャー企業などへの資金援助を強化する制度も盛り込まれる予定です。ここで最大の難所となるのが、研究成果を実際の事業へと発展させる段階で多くの企業が直面する「死の谷(デスバレー)」と呼ばれる資金や人材の不足です。この谷を飛び越える成功事例をいかに早く作れるかが、新制度の価値を証明する鍵になるでしょう。単なる予算のばらまきに終わらせない、実効性のあるサポート体制を構築すべきです。
創造的破壊がもたらす社会的リスクへの備え
一方で、イノベーションが強力に進むと、それは「ディスラプション(創造的破壊)」へと変貌を遂げます。これは既存の産業や社会の仕組みを根底から覆す現象を指しますが、新しい価値が生まれる一方で、古い仕事が失われ、雇用不安や経済的な格差が拡大するという負の側面も併せ持っています。
技術の進歩を追い求めるあまり、社会に取り残される人々を生み出しては本末転倒です。国はイノベーションを推進するのと同時に、セーフティネットの構築にも同等のエネルギーを注ぐべきでしょう。光が強ければ影も深くなるからこそ、社会の安定を守る防波堤を築くことこそが、政府に求められる最大の責任であると確信しています。
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