スキャンダルから始まった「マダムX」の秘密!メトロポリタン美術館150周年に見る、市民が育てたアメリカ近代アートの系譜

1884年、フランスのパリで開かれた美術展「サロン」は、ある1枚の絵画を巡って前代未聞の騒動に包まれました。暗闇から浮かび上がる妖艶な白い肌が印象的なその作品は、アメリカ人画家のジョン・シンガー・サージェントが描いた「マダムX(ピエール・ゴートロー夫人)」です。発表当時のタイトルは「夫人の肖像」でしたが、社交界で誰もが知る美女がモデルであることは一目瞭然でした。さらに、当初は右肩のドレスの紐が外れそうに描かれていたため、当時の人々はあまりの過激さに卒倒寸前だったと伝えられています。

このあまりにもスキャンダラスな美貌の描写には、画家の並々ならぬこだわりが隠されていました。近年のメトロポリタン美術館によるX線などを用いた科学調査では、頭や腕の角度が何度も修正された跡が見つかっています。耳元には鮮やかな天然顔料が使われ、背景の色彩を重ねることで、冷ややかで美しい藤色のトーンが生み出されていたことも判明しました。SNSでも「ただ美しいだけでなく、当時のタブーに挑んだ画家の情熱と科学の発見にゾクゾクする」といった驚きの声が広がっています。

激しい批判を浴びたサージェントは一時的な避難を余儀なくされ、夫人側からも絵の撤去を求められる事態へと発展しました。しかし1916年、彼はこの運命の作品を、自身のアメリカ人としての誇りを託すようにメトロポリタン美術館へ売却します。モデルのプライバシーを守るために「マダムX」という神秘的な名前が与えられたこの絵画は、いまや同館のアメリカン・ウイング棟を象徴する最高の至宝となりました。名声だけでなく、自国の芸術文化の発展を願った画家の執念が実を結んだ瞬間と言えるでしょう。

2020年に創立150周年という記念すべき節目を迎えるメトロポリタン美術館では、春から夏にかけて記念展「Making The Met」を開催します。この展覧会でも「マダムX」は最大の目玉として展示される予定です。王室のコレクションを基盤に持つヨーロッパの美術館とは異なり、この美術館は市民の寄付や熱意によって「ゼロから」築き上げられました。富を築いたニューヨーカーたちがこぞって美術品を持ち帰り、未来のために寄贈するという素晴らしい循環が、この奇跡の文化施設を支えているのです。

アートを愛する市民の情熱は、アメリカ独自のモダンアートを育てる原動力にもなっていきました。資産家であり自らも彫刻家であったガートルード・バンダービルト・ホイットニーは、若き才能を支援するためにコミュニティを設立します。彼女は「自分の作品を買ってくれる人がいると知ることが、芸術家を最も勇気づける」と信じ、若手作家の作品を惜しみなく買い支えました。その中には、後にアメリカを代表する画家となるエドワード・ホッパーも含まれており、彼女の行動がなければ名作「日曜日の早朝」も生まれなかったかもしれません。

ホイットニーたちの情熱に導かれるように、20世紀初頭にはロバート・ヘンライらを中心とした前衛美術グループ「ジ・エイト」といった新しい才能が台頭します。彼らはそれまでの古い権威に反旗を翻し、ニューヨークのリアルな都市生活や市民の日常をキャンバスに写し出していきました。これこそが、伝統的なルールに縛られない「アメリカン・モダンアート」の誕生の瞬間です。SNSでも「パトロンの存在が新しいアートを生み出す仕組みは、現代のクラウドファンディングにも通じる」と、多くの共感を呼んでいます。

美術館の作品に添えられた長いクレジット板には、寄贈した市民たちの名前や家族の想いが克明に刻まれています。これは、国家や特権階級のためではなく、自分たちの手で文化を育ててきたというニューヨーク市民の圧倒的なプライドの証拠です。素晴らしい芸術は、それを生み出す画家だけでなく、価値を認めて支える人々の愛によって完成するのではないでしょうか。150年の歴史を紡いできたメトロポリタン美術館に足を運び、人々の情熱が織りなす「美の奇跡」を、ぜひ肌で感じてみてください。

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