組織に縛られない自由な働き方として、近年大きな注目を集めているフリーランス。しかしその華やかなイメージの裏側で、特定の1社に依存せざるを得ない「名ばかりフリーランス」という過酷な実態が浮き彫りになっています。インターネット上のSNSでも「立場が弱くて買い叩かれる」「実質は会社員と変わらないのに保障が一切ない」といった悲痛な声が次々と上がっており、この問題への関心は日に日に高まりを見せている状況です。
内閣府が2019年に算出したデータによれば、国内のフリーランス人口は306万人から341万人程度と推計され、これは全就業者の約5%に匹敵します。さらに労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査では、全体の39.5%が特定の企業と専属、または優先的な取引を行う慣行にあると回答しました。つまり、フリーランスを名乗りながらも、実際には特定の1社に生活の大部分を握られている働き手が約4割も存在しているのが現実なのです。
このような立場にある働き手は、企業に対して圧倒的に弱い立場に置かれがちです。同調査によると、もし専属の取り決めに違反した場合は「現在の契約が解除される」と答えた人が23.1%にのぼり、「次回の契約更新が拒否される」という予測も12.4%に達しました。報酬の未払いや一方的な減額といった不当なトラブルに見舞われても、次の仕事への影響を恐れて泣き寝入りを強いられるケースが後を絶ちません。
企業に雇われている労働者であれば、労働基準法によって最低賃金や労働時間、有給休暇などが厳格に守られます。これに対して個人事業主であるフリーランスは、それらの法的な安全網(セーフティネット)が適用されないため、非常に不安定な環境での労働を余儀なくされるのです。自由な生き方を選んだはずが、実質的な雇用関係にありながら労働者としての権利を奪われている矛盾が生じています。
この問題をさらに加速させているのが、2019年4月1日から施行された働き方改革関連法です。大企業を対象に残業時間の上限規制が導入されたことで、自社の社員に無理な残業をさせにくくなった企業が、業務を外部へ委託する動きを強めました。大手転職サイトのデータでは、2019年4月から12月における業務委託の求人数が3年前の同時期に比べて52%も激増しており、外部人材への依存度が急速に高まっていることが分かります。
さらに2020年4月からは、この残業規制の波が中小企業にも波及するため、外注化の流れはさらに激化するでしょう。こうした背景を受け、厚生労働省は2017年10月から有識者による検討会を開始しました。取引先から不当な扱いを受けやすいフリーランスを救うため、報酬の最低基準を設定することや、発注元企業に対して健康・安全面への配慮を義務付ける方向で調整が進められています。
しかし、この議論は2年以上が経過した現在も難航を極めています。その最大の壁となっているのが、保護すべき対象をどのように「定義」するかという問題です。フリーランスの中には、高い専門性を武器に企業と対等以上の立場で交渉できる弁護士やITエンジニアなども存在します。そのため、一律の規制を設けることが難しく、収入や労働時間のどのラインをもって「専属」とみなすかの線引きが極めて困難なのです。
厚生労働省は2020年3月末までの今年度内をめどに結論を出したい意向ですが、当のフリーランス側からも「規制が厳しくなりすぎると、かえって仕事が減ってしまう」という懸念の声が出ています。自由な働き方を損なわずに、いかにして弱者を守るかという絶妙なバランス取りが求められており、政府の舵取りは簡単ではありません。一方で、海外に目を向けると、すでに新たな救済の仕組みが動き始めています。
労働力人口の多くをフリーランスが占めるアメリカのニューヨークでは、2016年に当事者たちの団体である「ユニオン」の働きかけにより、最低報酬を規定する画期的な法律が誕生しました。また、フランスでは2018年からネットを通じて仕事を仲介するプラットフォーマーに対し、労働者の労災保険費用を負担することを義務付けています。ドイツでも、健康確保や安全管理の措置を企業に課す動きが活発です。
日本政府は現在、終身雇用や新卒一括採用といった従来の日本型雇用からの脱却を目指し、副業やフリーランスといった多様な生き方を推奨しています。しかし、肝心の安全網が崩壊したままでは、単に「企業の都合の良い労働力」として消費されてしまう危険性を孕んでいると言わざるを得ません。真の働き方改革を実現するためには、すべての人が安心して能力を発揮できる法整備が何よりも急がれます。
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