植物由来の材料で本物さながらの肉を再現した「ビヨンド・ミート」などの躍進は、多くの起業家に大きな夢を与えています。現在、評価額が10億ドルを超える未上場企業、いわゆる「ユニコーン企業」を目指す動きがフード業界で急加速しているのです。
こうした「メード・イン・研究室」の最先端食品を手掛ける新興企業が急増する背景には、ある強力な立役者の存在があります。SNSでも「未来の食卓がここから始まる」「SFの世界が現実になる」と、フードテックへの関心が非常に高まっています。
2014年9月に首都ワシントンからサンフランシスコへ片道切符でやってきた当時27歳のアルトゥロ・エリゾンド氏も、その波に魅せられた一人です。仕事も住まいも決まっていない彼を救ったのが、起業家養成機関「インディバイオ」の創設者であるアルビンド・グプタ氏でした。
グプタ氏は彼が持つ世界を変えるアイデアと情熱を評価し、2015年から開始した養成講座の1期生として迎え入れました。そして、エリゾンド氏が立ち上げた人工卵白の開発企業「クララ・フーズ」に対して、10万ドルの出資を決めたのです。
インディバイオは、サンフランシスコのビル内に共同で利用できる充実した研究室やオフィスを完備しています。ここには数百万円規模の高度な分析装置や冷却設備が揃っており、資金の乏しいスタートアップでも、大企業並みの革新的な開発ができる環境が整っています。
最先端のバイオテクノロジーを用いた人工卵白や培養肉といった次世代の代替たんぱく質を開発する企業は、まさに爆発的に増加しています。業界の勢力図を示す「カオスマップ」を見ると、2018年1月にはわずか20社だった掲載企業が、2019年8月末には290社へと急増しました。
培養マグロで注目される「フィンレス・フーズ」など、このマップに名を連ねる企業の多くが、創業期にグプタ氏の支援を受けています。こうした最先端の食分野は、世界の食糧問題や環境負荷を大きく軽減する可能性を秘めており、地球の未来に不可欠な産業だと私は確信します。
グプタ氏は、IT業界のスピード感をバイオの世界に融合させることで、研究成果を社会に実装する速度を圧倒的に速めました。彼が投資を決める基準は、10億人以上の生活を変える可能性、巨額の市場規模、そして起業家の類いまれなる忍耐力があるかどうかです。
自身が愛好する柔術のように、小が大に対抗するための効率的な戦略を起業家たちに徹底的に叩き込み、これまでに116社を育ててきました。今後の激しい競争のなかで淘汰される企業もあるでしょうが、生き残った企業は世界を一変させる力を持つはずです。
1世紀前の自動車産業がそうであったように、無数の挑戦の先にこそ、既存の産業構造を覆す破壊的イノベーションが生まれます。こうした「研究室発の食革命」を単なる流行で終わらせず、社会全体で育てていく姿勢こそが、これからの新時代に求められているのではないでしょうか。
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