プロ野球界において、2020年02月01日の春季キャンプ開始日はまさに「元日」とも呼べる特別な節目です。しかし、グラウンドで躍動する選手たちとは裏腹に、現役時代を振り返る元巨人軍の仁志敏久氏の胸中は、私たちが想像する華やかなものとは大きく異なっていました。約1ヶ月間も続く過酷な共同生活に対して、現役中に心から喜びを感じた瞬間は一度もなかったと氏は本音を漏らしています。目的意識を欠いてしまえば、ただただ長い時間を浪費するだけの苦痛な日々に変わってしまうからです。
仁志氏が初めてのキャンプを迎えたのは1996年02月01日のことでした。当時の巨人には落合博満選手や松井秀喜選手といった、球史に名を残す大スターがひしめき合っていた時代です。プロへの期待よりも、強烈な不安と緊張に支配されていたと氏は回想します。さらに、いざ練習が始まると、大学や社会人野球では経験したことのない、全員で足並みを揃えて大声を張り上げるランニングがスタートしたのです。「プロの世界でもまだこんなに古い練習をやっているのか」という衝撃が、氏の最初の記憶でした。
かつての練習は、効率的とは言い難いものが主流でした。午前10時に始まると、まずは守備や牽制といった全体で行うチーム戦術の確認が行われます。しかし、選手同士の話し合いが長引くほど、出番のない若手はグラウンドで直立不動のまま待ちぼうけを食らうことになります。40分ほどの短い昼食を挟んだ午後からも、打撃や走塁、ランニングと続き、若手はさらにマシンの前でバットを振り込みます。拘束時間は非常に長いものの、その3分の1は実質的に何もしていない時間だったのです。
インターネットでのファンによるSNSの反応を見ても、「昭和や平成初期のスポーツ界は根性論が中心だった」「待ち時間の多さは非効率そのもの」と、当時の指導法に対する驚きの声が目立ちます。当時は「練習量こそが正義」と信じられており、トレーニングの科学的な効果を疑問視する声は届きにくい環境でした。指導者が「無理にでもやらせる時期が必要だ」と考えていた背景には、指示をされなければ自主的に動けない選手が多かったという当時のプロ側の事情も潜んでいたようです。
このような古い体質は、2000年代に突入すると同時に劇的な進化を遂げることになります。スポーツ科学、すなわち運動生理学やバイオメカニクス(生体力学)といった学術的なアプローチが急速に導入されたためです。これにより、身体のどの筋肉を鍛えれば打球の飛距離が伸びるのか、あるいは怪我を防げるのかがデータとして明確に証明されました。その結果、これまでの非効率な精神論による練習方法は次々と覆され、選手たちは個人の目的に応じたメニューを実践するようになったのです。
私自身の意見としても、この科学的な変革はプロ野球の競技レベルを飛躍的に向上させた決定打であると考えます。かつて定番だった「この1ヶ月で1年分の体力を貯金する」というフレーズは、現代では完全に過去の遺物となりました。一流と呼ばれる選手は、すでに年間を通した緻密なコンディショニング計画を自ら組み立てています。彼らにとって、ライバルから一歩でも後れを取ることは最大の恐怖であり、誰かに言われてから動くような受動的な姿勢では生き残れません。
2020年のシーズンに向けた戦いは、ユニフォームを着用してグラウンドに集まるよりも遥か前から、すでに水面下で火蓋が切って落とされているのです。現代の春季キャンプとは、単なる鍛錬の場ではなく、選手一人ひとりが抱く「もっと上手くなりたい」という貪欲な向上心を周囲に見せつけるためのプレゼンテーションの舞台だと言えるでしょう。個々の自立とプロ意識が試されるこのサバイバルから、一体どのような新星が現れるのか、今から楽しみでなりません。
コメント