なぜ今、中国SFが熱いのか?『三体』から読み解く巨大国家の光と影

いま、日本の出版界で異様なほどの熱視線を集めているジャンルをご存じでしょうか。それは「中国SF」です。2020年2月1日現在、東京・豊島区にあるジュンク堂書店池袋本店では、「中国からはじまるSF革命」と銘打たれた特設コーナーが期間限定で展開されています。2019年に劉慈欣氏の長編『三体』が日本で記録的なヒットを飛ばしたことをきっかけに、中国発の物語が静かな、しかし確かなブームを巻き起こしているのです。

店頭の棚には、特集を組んだ文芸誌や、若手作家の作品集が所狭しと並んでいます。興味深いのは、単にSF作品だけが置かれているわけではないという点です。同店の雑誌担当者である齊藤加菜氏は、中国の現状や文化を知ることで、より深くSFの世界観を堪能できると語ります。背景を知れば知るほど、作品の解像度が高まるというわけですね。

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繁栄の裏側にある「予感」を物語にする

では、なぜいま中国のSFが世界中でこれほどまでに支持されているのでしょうか。歴史を振り返ると、SFというジャンルは国が急速な繁栄を遂げ、同時に未来への漠然とした危機感が芽生えた瞬間に花開く傾向があります。戦後の米国や、高度経済成長期の日本がそうであったように、科学技術への期待と社会の変化に対する不安、その両方を内包する中国という巨大な存在が、物語の土壌として完璧に機能しているのでしょう。

実際に邦訳された作品を手に取ると、急速な経済発展の裏にある大都市の格差問題や、厳しいネット検閲といった現代社会の矛盾が色濃く影を落としています。フィクションでありながら、それがどこか自分たちの住む現実の地続きにあると感じさせるリアリティが、読者の心を強く揺さぶるのです。大国としての自意識と、抑圧や矛盾への視線が交差する点が、中国SFの最大の魅力と言えるでしょう。

世界の扉を開いた「架け橋」の存在

この世界的なブームを語る上で欠かせないのが、中国系米国人作家のケン・リュウ氏の功績です。1976年に中国で生まれ、11歳で渡米した彼は、自身の創作活動に加え、中国SFを積極的に英訳して世界へ紹介する「翻訳者」としての顔も持っています。2014年に彼の手で英訳された『三体』は、翌年、SF界の最高峰である「ヒューゴー賞」を受賞するという快挙を成し遂げました。

このヒューゴー賞というのは、SF文学の世界において最も権威のある賞の一つで、まさにSFの殿堂入りを意味します。オバマ前大統領や著名な経営者たちが『三体』を愛読しているというニュースは、中国SFが一部のマニア向けから、広く教養層まで浸透する決定打となりました。国境を超えた人的ネットワークが、埋もれていた傑作を世界へと導いたのです。

SNS上でも「圧倒的なスケール感に圧倒された」「現実社会の映し鏡のようで目が離せない」といった称賛の声が絶えません。これだけの条件が揃い、世界がその魅力に気付いた今、日本での本格的なブーム到来は必然だったと言えるのではないでしょうか。私たち読者は今、SFを通じて世界の新しい息吹をリアルタイムで目撃しているのかもしれません。

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