日本のものづくりを支えてきた象徴ともいえる鉄鋼業界に、激震が走っています。日本製鉄は2020年02月07日、広島県にある呉製鉄所を2023年09月末までに完全に閉鎖すること、そして和歌山製鉄所の高炉を休止することを公式にアナウンスしました。このかつてない規模の構造改革は、インターネット上でも「地域の雇用はどうなるのか」「日本の製造業の地盤沈下が止まらない」といった不安や驚きの声で溢れ、大きな反響を呼んでいます。
今回の決断で最も注目すべきは、高炉(こうろ)を持つ製鉄所の全面閉鎖が、同社の歴史において初めてであるという点です。高炉とは、鉄鉱石を高温で溶かして鉄の素となる「粗鋼(そこう)」を取り出す、いわば製鉄所の心臓部にあたる巨大な設備を指します。2021年09月末までに呉の2基を止め、さらに和歌山でも1基を休止させることで、グループ全体の生産力の約1割に及ぶ年間500万トンもの規模を削るという、まさに身を削るような荒療治です。
世界的な需要低迷と、過剰な生産がもたらす大逆風
日鉄がここまで追い込まれた背景には、米中による貿易摩擦の長期化があります。同社は生産する鉄の約4割を輸出しており、その多くを自動車などの製造業が占めていますが、世界的な景気減速で需要が著しく冷え込んでいます。その一方で、世界シェアの半分を誇る中国は増産の手を緩めていません。結果として市場には鉄が溢れかえり、原料の価格は高いままなのに製品の価格は上がらないという、極めて厳しい板挟みの状態が続いています。
ライバルたちの苦戦も目立ちます。世界トップのアルセロール・ミタル(欧州)が発表した2019年12月期の決算は4年ぶりの赤字へ転落し、韓国のポスコも営業利益が前の期に比べて3割も減少しました。しかし、日鉄の焦りはそれ以上に深刻です。なぜなら、かつての「鉄冷え」と呼ばれた不況期とは異なり、今や中国の宝武鋼鉄集団や韓国のポスコといったアジアの競合勢が、自動車向けなどの高級鋼材でも圧倒的な力をつけているからです。
問われる「稼ぐ力」と、日本のものづくりが生き残る道
顕著なのが「稼ぐ力」の差です。本業の儲けを示す指標である「EBIT(利払い・税引き前利益)」を1トンあたりで比較すると、ポスコが116ドル、宝武が107ドルなのに対し、日鉄は2018年度実績で40ドル程度と半分以下に甘んじています。私は、この数字こそが単なる不況ではなく、日本が技術やコスト競争力で追いつかれている現実を物語っていると考えます。高度な技術にあぐらをかかず、抜本的な変革を急がねば手遅れになるでしょう。
今回の合理化により、対象となる従業員1600人は配置転換で維持されるものの、地域経済へのダメージは計り知れません。それでも右田彰雄副社長は「環境に応じて次の一手も辞さない」としており、さらなる設備削減の可能性も漂わせています。国内にはまだ多くの高炉が残っていますが、全体で3割近くが過剰とされています。JFEスチールや神戸製鋼所も含め、日本の鉄鋼業は今、文字通り生き残りをかけた大再編の嵐の中に突き落とされています。
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