果物王国として名高い長野県で、いま農業の歴史を塗り替える劇的な変化が起きています。農林水産省が発表した2018年の県内農産物産出額において、なんとブドウの産出額が287億円に達し、これまで絶対王政を誇っていたリンゴの286億円を僅差で上回るという大金星を挙げました。長野県庁の担当者も「ブドウがリンゴを超えるのは歴史上初めて」と驚きを隠せない様子で、この衝撃的なニュースはSNS上でも「ついにリンゴの牙城が崩れたか」「時代の流れを感じる」と大きな話題を呼んでいます。
この下克上とも言える急成長の原動力となっているのが、SNSでも「ご褒美フルーツ」として毎秋トレンド入りを果たす「シャインマスカット」をはじめとした高級品種の圧倒的な人気です。店頭では1房1000円から3000円前後という高価格帯であるにもかかわらず、その濃厚な甘みと、何より「皮ごと種なしで食べられる」という圧倒的な手軽さが現代の消費者のニーズに見事にマッチしました。市場では空前の「シャインバブル」が到来しており、この需要の高さが農家の生産体制を大きく変えるきっかけとなっています。
実際に現場の農家では、従来の「巨峰」や「デラウェア」からシャインマスカットへ栽培を切り替える動きが加速しています。須坂市で2ヘクタールの広大な農地を営む岡木由行さんも、手掛けるブドウの実に8割をシャインマスカットにシフトさせました。数年前までは半分程度でしたが、高い単価が収益の安定に直結するため、重点的に投資を進めてきたそうです。さらに、海外からの熱い視線もこのバブルを後押ししており、日本の果実ブランドの強さが改めて浮き彫りになっています。
高級志向へのシフトが生み出す経済効果は、数字を見るとさらに一目瞭然でしょう。2013年と2018年の5年間を比較すると、ブドウの収穫量自体は16%の増加にとどまっているのに対し、産出額はなんと2.2倍へと跳ね上がっています。これは、出荷されるブドウ1トンあたりの価値が49万円から92万円へと倍増したことを意味しており、まさに少数精鋭の「稼げる農産物」へと進化を遂げた証拠と言えます。少ない労力で効率よく利益を上げるビジネスモデルへの転換が、見事に成功しているようです。
こうしたブドウ人気の高まりは、地域の深刻な課題である高齢化や離農による「遊休農地(耕作が放棄され放置された農地)」の解消にも一役買っています。須坂市の三木正夫市長によれば、市内にはブドウ向けの空き農地がもうほとんど残っておらず、リンゴやモモの畑からブドウへと植え替える新規就農者も後を絶たない状況です。実際に県内の栽培面積を見ても、リンゴやモモが減少傾向にある一方で、ブドウだけは着実に面積を維持・拡大しており、地域農業の救世主となっています。
さらに、この勢いは自治体の財政をも潤す強力なツールとなりました。須坂市が2019年に集めたふるさと納税の寄付額は、前年の3倍近い約13億円にまで急膨張しています。寄付者が選ぶ返礼品の多くが美味しいブドウであり、すでに2020年産の予約も殺到している状態です。インターネット上でも「須坂市のブドウを申し込んだ」「届くのが今から楽しみ」といった声が多数見られ、ふるさと納税制度と高級フルーツの相性の良さが、地域のブランド価値を爆発的に高めています。
日本の美味しいブドウは、いまや海を越えてアジアの富裕層をも魅了しています。2018年における長野県の農産物輸出額は過去最高の12億円を記録しましたが、その半分以上をブドウが占めるという快挙を成し遂げました。香港や台湾、シンガポールなどの百貨店では、極上の贈答品として1房6000円前後の高値で取引されることも珍しくありません。日本国内にとどまらず、世界基準のプレミアムブランドとしての地位を確立しつつあるブドウのポテンシャルには目を見張るものがあります。
攻めの姿勢を崩さない長野県!次なる神品種と「日本ワイン」の追い風
長野県は現在の成功に甘んじることなく、次なる一手として2022年に新しい赤ブドウ「クイーンルージュ」を市場へ投入する準備を進めています。こちらも「皮ごと・種なし」というトレンドを抑えつつ、糖度はシャインマスカットを凌ぐ圧倒的な甘さが特徴です。これで白・黒・赤の3色が揃うことになり、ギフトとしての見栄えも完璧になります。また、機能性表示食品として血圧上昇を抑える効果が期待される「ナガノパープル」の健康需要も掘り起こす方針で、その多角的な戦略には編集部としても大いに注目しています。
ブドウ人気の追い風は生食用だけではありません。国産ブドウを100%使用して国内で醸造される「日本ワイン」のブームも、生産拡大を強力にバックアップしています。冷涼で日照時間が長い長野県の気候は、ワイン用ブドウの栽培に最適です。県内のワイナリー数はわずか2年で20カ所近くも増えて56カ所に達し、大手飲料メーカーも自社畑の拡張に乗り出しています。醸造家たちの熱い情熱が、長野の土地から世界に誇る銘醸ワインを生み出し、ブドウの価値をさらに引き上げていくことでしょう。
一方で、王座を譲ったリンゴも決して手をこまねいているわけではありません。栽培面積では依然としてブドウの3倍以上を誇り、圧倒的な生産量を有しています。しかし、1ヘクタールあたりの収益性で見るとブドウがリンゴの3倍稼いでいるのが現実であり、リンゴの「稼ぐ力」の底上げが急務です。県は特別な苗を狭い間隔で植えて効率よく収穫する「高密植栽培(こうみつしょくさいばい)」の普及や、8月に出荷できる新品種「シナノリップ」の投入で、流通量が少ない夏の市場を狙う戦略を進めています。
ただ、リンゴは手軽な価格帯が魅力である半面、ブドウのようなプレミアム価格を設定しにくい構造があります。さらに、主力の「ふじ」は収穫期が11月前後と遅いため、近年の気候変動による大型台風の被害を受けやすいという深刻なリスクも抱えています。私自身の意見として、リンゴ農家を守るためにも、災害に強い栽培技術の確立や、加工品へのシフトなどによるリスク分散の仕組み作りが、行政とJAを挙げた最優先課題になるのではないかと強く感じています。
現在の「シャインバブル」は農家を大きく潤していますが、専門家からは「流通量が増えすぎると品質にばらつきが出て、将来的に値崩れを起こすリスクがある」という懸念の声も上がっています。ブドウ一極集中に頼る現在の状況は、裏を返せば市場が飽和したときのリスクも大きいと言えるでしょう。一過性のブームで終わらせないためにも、ブドウの品質管理を徹底しつつ、リンゴやモモといった他の果実も含めた「果物王国・長野」全体のバランスの取れた振興策が、今後の未来を握っています。
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