広大な大地に多様な文化が息づくインド市場は、多くの日本企業にとって魅力的な新天地として注目を集めています。しかし、いざ現地へ進出すると、日本とは全く異なる仕事へのアプローチに戸惑うビジネスパーソンが後を絶ちません。通算11年間にわたり現地でリーダーシップを発揮してきた三井化学の役員付である阿部敏之氏は、リアルな現場の空気を伝えています。2015年に彼がグジャラート州で経験したバイオウレタン原料の合弁工場建設の物語は、私たちが持つ「当たり前」を根底から揺さぶるものです。
バイオウレタンとは、植物由来の再生可能資源を原料としたプラスチックのことで、環境への負荷を減らせる現代に欠かせない素材です。阿部氏はこの持続可能な素材を生産する最先端の工場立ち上げに向けて、日本側の代表として赴任しました。しかし、彼を待ち受けていたのは、毎日が驚愕の連続となるタフな交渉の日々だったのです。建設に必要な鋼材が届かないため慌てて問い合わせてみると、別のお得意様からの緊急注文を優先したという、日本では信じられない回答が返ってきたといいます。
さらに驚くべきことに、阿部氏が急いで現場に赴いたところ、鋼材会社の社員たちは気持ちよさそうに昼寝を楽しんでいました。このエピソードがネット上で紹介されると、SNSでは「想像を絶するマイペースさに圧倒される」「これぞインドの洗礼」といった驚きの声が多数寄せられています。日本流の「相手の意図を汲み取る」お任せスタイルは、この地では確実に破綻してしまうでしょう。現地でのプロジェクト管理には、常に気を抜かずに納期や品質を厳密にチェックする姿勢が求められます。
驚きのトラブルから見えてくる現地の合理主義
トラブルはそれだけに留まらず、電気工事の発注先は契約から1カ月が経過しても全く作業に着手しないまま、突然辞退を申し出てきました。他の業者はすべて断っていたため、阿部氏は窮地に立たされます。さらにその業者は、準備した資材を買い取れという理不尽な要求まで突きつけてきたのです。はらわたが煮えくりかえるような悔しさを覚えながらも、スケジュールの遅れを取り戻すために泣く泣く受け入れるしかありませんでした。配電盤が部屋に入らずドアを破壊して搬入する事件まで起きています。
こうした過酷なトラブルの連続を聞くと、海外展開への意欲が萎んでしまう方もいるのではないでしょうか。しかし阿部氏は、彼らの行動を単なる怠慢ではなく、ある種の「合理的なエコ発想」であると独自の視点で分析しています。彼らはまず自分のペースで作業を進め、顧客からクレームが入った段階で初めて軌道修正を図るのです。もしそのまま通過すれば、最小限の労力で無駄のない仕事を完遂できたことになります。これは過剰な品質やサービスを追求しがちな日本とは真逆の思考回路です。
ネットの反響でも、「過剰サービスに疲れた日本人が見習うべき部分もあるのでは」という深い考察が見られました。インド人は本質的に人懐こく、人間味に溢れた愛すべき存在です。彼らとビジネスを共にする上での最大の秘訣は、日本式の厳格さをベースに維持しつつも、相手の行動特性を深く理解することだと言えます。現地の「緩さ」をどこまで受け入れられるかというバランス感覚こそが、グローバル展開を成功へ導く道標となるでしょう。
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