私たちは今、世界の台所が一つの巨大な波に揺さぶられる瞬間を目撃しています。その中心にいるのが、急激な経済成長を遂げた中国です。中国国内の需要が少し変化するだけで、世界の食料相場がドミノ倒しのように激変する状況が続いています。特に顕著な影響が出ているのが大豆です。2020年2月6日、中国政府が米国からの輸入品に対する関税を引き下げると発表したことで、シカゴの穀物市場は中国向け輸出の拡大への期待感に包まれました。
実は大豆の国際相場は、米中間の激しい貿易摩擦が原因となり、2019年には一時およそ10年ぶりの安値を記録するほど不安定な動きを見せていました。今回の緊張緩和は市場にとって明るいニュースに見えます。しかし、手放しで取引が活発化すると楽観視する声は多くありません。なぜなら、2020年に入って世界中を震撼させている新型コロナウイルスという、予測不能な新しいリスク要因が突如として浮上してきたからです。
中国が大量に輸入する大豆の多くは、日々の食卓に欠かせない食用油や、家畜の「飼料(家畜の栄養となるエサのこと)」に加工されています。SNS上でも「中国の経済活動が止まると世界の農家が干上がるのでは」と心配する声が相次いでいます。新型肺炎による経済の冷え込みは人々の消費行動に大きな影を落としており、大豆の輸入ペースを大きく鈍らせる可能性が指摘されているのです。
さらに中国の食料需要には、それ以前から別の深刻な打撃もありました。それが「アフリカ豚熱(豚やイノシシに感染すると極めて高い確率で死に至る伝染病)」の猛威です。これにより国内の飼育豚が激減し、飼料用大豆の需要が縮小しました。その一方で、不足した豚肉を補うために中国が海外で大規模な買い付けを行った結果、欧州の豚肉価格が跳ね上がり、日本のバイヤーが買い負けを懸念する事態に発展しています。
2000年ごろには世界の大豆輸入量の約2割を占めるに過ぎなかった中国ですが、今やそのシェアは6割を超えています。豚肉の生産量も世界の半分近くを占める巨大市場だからこそ、その一挙手一投足が世界に波及します。中国には国際市場を混乱させないための衛生管理や安定調達の責任があると言えますが、それ以上に、食料の多くを海外に頼る日本がこのリスクを自分事として捉え、自給力の強化に本気で乗り出すべき局面です。
日本が取るべき対策は、輸入ルートの多角化を進めると同時に、国内の農業生産基盤を底上げすることでしょう。そのためには、ただ財政資金を投入するのではなく、非効率な体制を温存しがちな従来の補助金の仕組みを、生産性向上を促す形へ是正することが不可欠です。ピンチをチャンスに変え、輸出拡大を見据えた強い農業へと脱皮することこそが、私たちの未来の食卓を守る唯一の道であると確信しています。
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