日本のエネルギー政策に、一筋の大きな波紋が広がっています。小泉進次郎環境相が、2020年01月21日の記者会見で、日本が支援する海外の石炭火力発電所建設に対して、異例とも言える懸念を表明したのです。
批判の対象となったのは、三菱商事などがベトナムで計画している「ブンアン2」という巨大プロジェクト。小泉環境相は2020年01月24日にも、日本の優れた技術を活用するという大前提に合致しないとして、政府系の融資姿勢を厳しく批判しました。
この発言はSNS上でも大きな話題を呼んでいます。「世界の脱炭素の流れに取り残されないために当然の指摘だ」と支持する声が集まる一方で、「現地の経済事情を無視した理想論ではないか」という現実的な懸念も噴出しており、世論を二分する熱い議論が巻き起こっています。
世界は今、地球温暖化対策の歴史的な枠組みである「パリ協定」の本格運用が始まり、二酸化炭素の排出削減へ大きく舵を切っています。欧米の金融機関も環境への配慮を重視する「ESG投資」の観点から、石炭事業への融資を次々とストップしているのが現状です。
アジアが直面するエネルギーのジレンマ
しかし、ここには理想だけでは語れない深刻な問題があります。過去20年間に作られた石炭火力発電所のうち、実に9割がアジアに集中しているのです。アジアの発電量に占める石炭の割合は約6割と高く、世界平均の2割を大きく上回っています。
経済成長が著しいアジア地域では、安価で安定した電力がどうしても欠かせません。もし石炭をすぐにゼロにするのであれば、それに代わる安くて安定したクリーンなエネルギーが必要不可欠ですが、その具体的な代替案を示すのは容易ではないのです。
ここで私は、環境相の熱意を高く評価しつつも、現実的な「移行期の戦略」を冷静に見極めるべきだと考えます。環境先進国である欧州とは異なり、東南アジアは風力発電に適した土地が限られており、国同士を結ぶ送電網のインフラも十分に整っていません。
だからこそ、理想的な再生可能エネルギーへ一足飛びに向かうのではなく、まずは石炭に比べて二酸化炭素の排出が少ない「天然ガス」への転換を促したり、二酸化炭素を極力出さない最先端の高効率な発電設備を導入したりする現実路線が必要ではないでしょうか。
インフラビジネスの変革と日本の役割
小泉環境相は「日本が資金を出し、アメリカや中国の企業が建設を担うのはおかしい」とも指摘しました。確かにブンアン2では、主要な機器にアメリカのゼネラル・エレクトリック社製が予定され、建設には中国企業も関わる見込みとなっています。
ですが、現代の海外インフラビジネスは、もはや「日本製の機械を売るだけ」の時代を過ぎています。今の主流は、資金調達から燃料の調達、発電所の運営までを一括で取りまとめる総合的なプロデュース力、すなわち「投資金融」の形へと変化しているのです。
巨大化する世界のプロジェクトを日本企業だけで完結させることは、現実的ではありません。アメリカや中国の企業を巻き込んだ複雑な仕組みを日本が主導してまとめ上げることこそが、結果としてアジア市場での日本のプレゼンスを高める道になるはずです。
脱炭素という地球規模の正論を掲げるだけでなく、現地の切実な経済成長のニーズにも寄り添うこと。この一見矛盾する二つの課題を絶妙なバランスで解決していくマネジメント力こそが、アジアの一員である日本に今まさに求められている処方箋なのです。
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