アメリカの金融市場に激震が走るニュースが飛び込んできました。トランプ政権は、監査法人を厳格に監督してきた独立組織「上場企業会計監視委員会」、通称PCAOBを、米証券取引委員会であるSECに吸収合併させる方針を打ち出しました。この決定は、トランプ政権が2020年02月10日に公表した2021会計年度の予算教書の中で明らかになったものです。政権発足から3年が経過し、膨らみ続ける財政赤字を抑えるための歳出削減策として、この統合計画が浮上しました。
政府側は、今回の組織再編によって2032年までに合計で5億8千万ドルもの資金を浮かせることができると試算しています。さらに、トランプ政権は「それぞれの規制当局が持つ権限の曖昧さや、業務の重複を解消することが狙いである」と説明を加えました。しかし、市場関係者の間では、このドラスティックな方針に対して早くも強い不審感と大きな動揺が広がっています。企業の財務に直結する重要な見直しだけに、今後の展開から目が離せません。
SNS上でもこのニュースは瞬く間に拡散され、投資家を中心に多くの意見が飛び交っています。「過去の巨大な不正会計の教訓を忘れてしまったのか」「政府の財政難を理由に、市場の安全性を犠牲にするのは本末転倒だ」といった、危機感を募らせる投稿が相次いでいる状況です。一方で、「お役所の縦割り行政や、無駄な二重規制が減ってすっきりするなら歓迎すべきだ」という、コスト削減や効率化の面を支持する現実的な声も一部で見られます。
そもそもPCAOBとは?誕生の背景と果たしてきた役割
ここで、今回話題となっているPCAOBについて分かりやすく解説しましょう。これは、企業の通信簿とも言える「財務諸表」が正しく作られているかをチェックする「監査法人」を、さらに上から厳しく監視する、いわば「番人の中の番人」です。この組織が生まれたきっかけは、2000年代初頭にアメリカを揺るがした、エネルギー大手エンロンや通信大手ワールドコムによる巨額の不正会計事件でした。当時は監査法人側の不正や癒着も発覚し、業界の自主規制が全く機能していないことが露呈したのです。
市場の信頼を回復するため、2002年に投資家保護を目的とした「企業改革法(サーベンス・オクスレー法)」が成立し、それに基づいて誕生したのがPCAOBでした。独立した強い権限を持つ彼らは、監査の現場に強い緊張感をもたらし、不正の抑止力として大きな成果を上げてきた実績があります。過去には米国に上場する日本企業を担当する日本の監査法人にも立ち入り調査を行い、その不備を厳しく指摘したこともあるほど、その影響力は世界に及んでいます。
求められるガバナンスと、巨大組織SECへの統合が招くリスク
しかし、完璧に見えたPCAOBも近年は自身のガバナンス、つまり組織としての統治体制や内部管理の乱れが表面化していました。大手会計事務所への査察情報が事前に漏洩して幹部が更迭されたり、2019年には組織内の内紛を告発する文書が提出されたりと、不祥事が続いていたのです。こうした身内の失態が、今回のSECへの吸収案の後押しになった側面は否定できません。ですが、だからといってこの統合が正しい選択なのかという点には、専門家からも疑問が呈されています。
PCAOBの元委員であるダニエル・ゲルツアー氏は、この決定を真っ向から批判しています。なぜなら、これまでPCAOBは独立した存在だからこそ「監査の質向上」だけに全力を注げたからです。一方で、吸収先となるSECは上場審査から証券詐欺の摘発まで膨大な業務を抱える巨大組織です。約800人のPCAOBが、約4600人を抱えるSECの一部門に組み込まれてしまえば、監査監督という地味ながら重要な業務の優先順位が下がり、機能が停滞してしまう恐れがあるでしょう。
世界の潮流に逆行する規制緩和、問われる投資家保護のあり方
現在、「監査の質の向上」は世界共通の課題となっています。例えばイギリスでは、2018年の建設大手の破綻を機に、政府が2019年に規制当局の監督権限を大幅に強化したばかりです。それだけに、アメリカが予算削減を理由に監督機能を弱めようとする動きは、時代の流れに逆行していると言わざるを得ません。ビジネスの利便性や負担軽減を重んじるトランプ政権らしい選択ですが、市場の透明性を犠牲にするリスクをはらんでいます。
編集部としては、今回の統合案は目先のコストカットや企業ファーストの姿勢が強すぎるあまり、最も守るべき一般投資家の視点が置き去りにされていると感じます。監査の目が緩むことは、巡り巡って市場全体の信頼を失墜させ、より大きな経済的損失を招きかねません。ガバナンスの立て直しは必須ですが、それは独立性を保ったまま行うべきではないでしょうか。投資家保護か、それとも企業の負担軽減か、このバランスを巡る議論はこれからさらに白熱していくはずです。
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