横浜国立大学が挑む「リスク共生」の最前線!予測不能な時代を生き抜く知恵と社会実装のカタチ

私たちは、巨大地震や予期せぬ交通事故など、常に隣り合わせのリスクの中で生活しています。2019年11月13日現在、これらの脅威を完全に排除することは不可能であり、大切なのは「どう向き合い、折り合いをつけるか」という視点です。横浜国立大学は、国立大学としては非常に珍しい研究拠点「リスク共生社会創造センター」を2015年に設立しました。ここでは単なる理論にとどまらず、研究成果を実際の社会に役立てる「社会実装」に心血を注いでいます。

同センターの野口和彦センター長は、「社会のリスクはトレードオフの関係にある」と鋭く指摘します。これは、あるリスクを低減させようとすると、別のリスクが増大してしまう現象を指します。例えば、温暖化防止のために火力発電を制限すれば、電力の安定供給が揺らぎ、原子力への依存や不安定な再生エネへの転換という新たな課題が浮上します。こうした複雑な連鎖の中で、私たちがどこまでリスクを許容できるのかを探るのが「リスク共生」の本質なのです。

野口センター長は、以前に在籍していた三菱総合研究所での経験を活かし、市民の価値観を深く掘り下げています。人々が何に豊かさを感じるのかを5年周期の調査で分析し、「心身の健康」や「人間関係」への比重の変化を追ってきました。国が想定するリスクと個人が感じる不安には乖離があり、時代と共にその形も変容します。SNS上でも「安全の基準は人それぞれ」といった声が上がっており、画一的な対策ではない柔軟なアプローチが今まさに求められているのでしょう。

2019年9月に関東を直撃した台風15号による千葉県の長期停電は、私たちの脆さを浮き彫りにしました。高度に電化された現代社会では、エネルギーの途絶がそのまま生存のリスクに直結します。センターではこうした過去の災害事例や社会価値の変化をデータベース化し、優先的に小さくすべきリスクを特定する試みを続けています。何を守るべきかを明確にすることは、混沌とした時代における羅針盤になると私は確信しています。

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産学連携で描く安全な未来へのガイドライン

研究を象徴する成果の一つが、三菱総合研究所と2016年から2019年にかけて行った共同プロジェクトです。ここでは水素エネルギーのような先端技術が社会に導入された際の影響を多角的に検証しました。災害時の復旧体制や新しい規制が生活に及ぼす影響など、産学の専門家が激論を交わし、2019年2月には「先端科学技術の社会総合リスクアセスメントガイドライン」を完成させています。これは未来のインフラを支える重要な指針となるはずです。

リスク研究の難しさは、工学、経済学、心理学といった学問の壁を越えた「総合力」が必要な点にあります。三菱総研の石井和主席研究員は、横浜国大が持つ工学分野の卓越した知見を高く評価しています。データ分析を得意とする民間シンクタンクと、技術的根拠を持つ大学が手を組むことで、理論だけでは到達できない実効性のある対策が生まれます。こうした「知の融合」こそが、停滞する日本社会に突破口を開く鍵になると私は期待しています。

もちろん、すべてのリスクを数値化する「定量化」という目標は、現時点では極めて困難な壁として立ちはだかっています。しかし、正解のない問いに挑み続ける姿勢こそが、学問の真髄ではないでしょうか。リスクをゼロにしようと躍起になるのではなく、正しく理解し、共に生きていく知恵を育む。このセンターの挑戦は、私たちがより賢く、より豊かに暮らすための「生き残りのバイブル」を編纂しているようにも感じられます。

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