中国の湖北省武漢市を中心に猛威を振るっている新型コロナウイルスですが、2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックを控えた大会関係者の間でも、にわかに緊迫感が高まっています。国内外から延べ約1000万人もの大観衆が日本を訪れるビッグイベントだけに、もしもこのまま事態が収束しなければ、会場が深刻な感染拡大の舞台になりかねないからです。ネット上でも「本当に開催できるのか」「選手や観客の安全を最優先にしてほしい」といった、不安や先行きを懸念する声が急速に広がっています。
こうした未曾有の事態を受けて、政府は2020年2月7日にオリンピック関係省庁や各競技団体を集めた緊急の対策会議を執り行いました。席上、橋本聖子五輪相はご自身が日本選手団の団長を務めた2016年のリオデジャネイロ五輪での苦い教訓を告白されています。当時は蚊が媒介する「ジカ熱(発熱や頭痛を伴い、妊婦の感染で胎児に影響が出る恐れがある感染症)」の不安が渦巻く中、情報の共有が遅れて選手たちを動揺させてしまったそうで、今回は一刻も早い先手を打つ姿勢を強調されました。
現在、国際大会では中国人選手の出場が難しくなるなど、すでにスポーツ界への影響が出始めています。そこで政府は内閣官房とスポーツ庁に競技団体向けの専用相談窓口を設けることを決定しました。さらに東京都の幹部からは、会場へのサーモグラフィー(赤外線で体表温度を測定し、発熱者を瞬時に見つける装置)の設置や、状況に応じたマスクなどの予防グッズ配布という具体的な案も飛び出しています。後手に回らず、目に見える形で安心感を届ける対策を徹底してほしいものです。
過去の大会でも猛威を振るった感染症のリスクとこれからの課題
世界中から膨大な数の人々が移動して密集するオリンピックは、常に感染症の脅威と隣り合わせの歴史を歩んできました。記憶に新しい2018年の平昌冬季五輪では、警備スタッフを中心に250人以上が激しい嘔吐や下痢を引き起こす「ノロウイルス」に集団感染し、一部の選手にも牙を剥いたのです。宿舎のような共同生活の場は、ひとたびウイルスが入り込むと爆発的に広がるため、日本でも同様の事態が起こる危険性は十分に潜んでいるといえるでしょう。
政府は2019年8月にエボラ出血熱やMERS(中東呼吸器症候群)を想定した多言語での予防策発信などの計画をまとめていましたが、今回の新型肺炎は想定以上のスピードで拡大しています。かつて2003年に猛威を振るったSARS(重症急性呼吸器症候群)のときは、流行が始まってから世界保健機関(WHO)が終息を宣言するまでに約5ヶ月もの歳月を要しました。この前例を考えると、今回の戦いも長期化すれば大会の準備そのものに大きな遅れが生じるのではないかと危惧されます。
大会組織委員会によると、感染症を理由にした中止や延期の明確なルールは存在せず、最終的には競技ごとに実施の可否を判断していく方針だそうです。世界中が熱狂する平和の祭典だからこそ、選手が万全のコンディションで挑み、観客が心から歓声を送れる環境が不可欠でしょう。目に見えないウイルスという強敵に対し、国や自治体、組織委員会がワンチームとなり、科学的根拠に基づいた最高レベルのセーフティネットを構築することを切に願います。
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