2019年6月29日に閉幕したG20大阪サミットで、日本が議長国として「自由で公正、無差別的で透明、予見可能で安定した貿易環境となるよう努力し、開かれた市場を保っていく」という首脳宣言を苦心の末にまとめた直後のことでした。わずか2日後の同年7月2日、日本政府は韓国に対する輸出管理の運用を見直し、規制を厳しくすると発表したのです。この措置は同年7月4日に発動されました。
日本政府が規制強化に踏み切った理由として挙げられたのは、大きく分けて二点あります。一点目は「日韓間の信頼関係が著しく損なわれた」という点です。これは、韓国人元徴用工をめぐる訴訟問題に対する韓国政府の対応に、日本側が不満を募らせていたことが背景にあり、事実上の対抗措置だと捉えられています。二点目は「韓国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生した」という点ですが、具体的な中身については明らかにされていません。
今回の措置が、G20で掲げた「透明、予見可能で安定した貿易環境となるよう努力」という精神に合致しているのかどうか、疑問の声も上がっています。過去にも、2010年に尖閣諸島をめぐる日中対立が激化した際、中国が半導体の製造などに不可欠な**レアアース(希土類)**の対日輸出を事実上停止した事例がありました。また、2018年には米政府が高率の追加関税を鉄・アルミ製品の対米輸入に課し、同年には中国が対米貿易戦争の一環としてレアアースの輸出管理規制の強化を検討する方針だと伝えられるなど、通商政策が政治的紛争の解決手段として利用されるケースが世界的に散見されるようになっています。
日本政府はこれまで、高関税をちらつかせる脅しや、通商政策を政治的な手段として利用する動きに対しては、一貫して強く抗議する姿勢を見せてきました。安倍晋三政権は、米国が離脱した後の環太平洋経済連携協定(TPP)の取りまとめを主導し、さらに欧州連合(EU)とも経済連携協定(EPA)を締結するなど、保護主義が広がる世界の中で、自由貿易体制を守るための重要な役割を果たしてきたといえるでしょう。しかし、今回の対韓輸出規制の強化は、それまでの日本の国際的な努力や立場を損なう恐れがあるのではないかと危惧しています。
半導体産業への影響と通商政策を政治利用するリスク
日本が規制を厳格化した対象品目には、フッ化水素、フッ化ポリイミド、**レジスト(フォトレジスト)といった、半導体やディスプレイ製造に不可欠な素材が含まれています。特に、フッ化水素やレジストは、極めて高い純度が求められる素材で、日本企業が世界の市場で圧倒的なシェアを握っています。これらの素材の輸出管理が厳しくなることで、韓国の大手電機メーカーの生産に影響が出る可能性があり、ひいては世界の半導体(集積回路)**の国際的なサプライチェーンにも波及効果が及ぶかもしれないと懸念されています。半導体は、スマートフォンやPC、自動車など、現代社会のあらゆる機器に使われる「産業のコメ」とも呼ばれる基幹部品です。
元徴用工をめぐる韓国政府の対応に問題があり、日本政府がその是正を求めていくのは当然の外交努力です。しかし、その手段として輸出規制のような経済措置を用いることは、日韓関係の悪化を招くだけでなく、世界貿易や世界経済全体に及ぼすリスクが非常に大きいと考えられます。仮に、輸出管理に関して韓国で不適切な事案があったとするならば、まず通商協議の場で韓国政府と議論を尽くし、外交的に解決を図るべきであったというのが私の意見です。
この日本の措置に対して、SNS上でも大きな反響がありました。「信頼関係の回復が必要だ」と政府の判断に理解を示す声がある一方で、「経済を外交カードにするのは危険だ」「世界のサプライチェーンを混乱させないか」といった懸念の声も多く見受けられました。特に、ハイテク素材の供給が滞る可能性について、消費者や産業界からの関心は非常に高かったようです。
「報復の連鎖」に勝者はいない
米トランプ政権の登場以降、貿易面での報復や制裁措置が世界中に広がり、これが世界経済の先行きに深刻な脅威をもたらしています。今回の日本の輸出規制強化も、「やられたからやり返す」という形の報復の連鎖をさらに拡大させることにつながりかねません。かつて、貿易を巡る対立で関税を引き上げ合った1930年代の大恐慌時のような「保護主義の蔓延」を思い起こさせる動きは、国際協調を重視する立場から見て憂慮すべき事態です。
通商政策を外交・政治的な手段として利用する動きが世界で常態化すれば、自由で安定した国際貿易の枠組みが崩壊し、誰もが不利益を被ることになるでしょう。報復の連鎖が広がる世界に、「勝者」は存在しないのです。今回の件が、日韓両国だけでなく、国際社会全体にとっても、通商と政治の関係、そして自由貿易の重要性を再認識するきっかけとなることを強く望むばかりです。
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