日本経済新聞社が2019年6月6日に発表した2019年度の設備投資動向調査の結果は、中部地方の産業界が大きな変革期にあることを示しています。中部の全産業の当初計画設備投資額は、2018年度の実績と比較して4.8%の増加となる見込みですが、全国の伸び率9.9%と比べると、その勢いは鈍化している様子が浮き彫りになりました。しかし、この背景には、中部地方に集積する自動車産業がCASEと呼ばれる次世代技術、すなわちコネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)の実用化に向けた投資を、引き続き高い水準で継続している状況が大きく関係しています。
2014年の統計開始以来、中部の増減率が全国平均を下回るのは今回が初めてのこと。これは一見すると景気に一服感が見られるようにも捉えられますが、2018年度に15.8%と大幅な増加を記録した大型投資の反動による影響が大きいと推測されます。今回の調査は、4月30日時点での計画を対象に、集計対象の100社から得られたもので、設備投資の合計額は全産業で4兆1282億円に上っています。内訳を見ると、製造業(62社)が2.2%増の3兆819億円であったのに対し、非製造業(38社)は13.2%増の1兆462億円と、非製造業の伸び率が製造業を大きく上回っている点も注目すべき点でしょう。
製造業においては、世界的な景気失速の懸念や米中貿易戦争の激化といった外部環境の変化に対する警戒感も垣間見えます。具体的には、投資額で第4位にランクインしたアイシン精機が、2019年度は10.2%減の3500億円を計画しています。同社は、2018年度に約200億円を投じて自動変速機(AT)の新工場(岐阜県瑞浪市)を稼働させるなど大型投資が先行していたため、その反動減が見込まれるのです。同社の伊勢清貴社長は「事業のスクラップ・アンド・ビルドを進め、『CASE』に回していく」と明言されており、自動車産業の大転換期を乗り切るため、次世代技術への投資は不可欠との強い意志を感じます。
同様に、豊田自動織機も2018年度に多目的スポーツ車(SUV)「RAV4」の生産設備投資を長草工場(愛知県大府市)で行った反動で、2019年度は7.7%減となる見込みです。しかし、業界トップのトヨタ自動車は、高水準の投資額を維持し、1.1%減の1兆4500億円という微減の計画を立てており、豊田章男社長も「未来への投資を遅らせないことが大変重要な課題だ」と述べるなど、CASE技術への取り組みを緩めない姿勢を示しています。中部地方の将来を左右する自動車産業が、目先の景気動向に左右されず、将来を見据えた研究開発投資を積極的に行っていることは、非常に心強い動きであると言えるでしょう。
非製造業の躍進とイノベーション投資
今回の調査では、非製造業の設備投資の伸びが際立っている点にも着目すべきです。特に、リニア中央新幹線という大規模プロジェクトを進めるJR東海は、3割増の6210億円を計画しており、2018年度実績からの増加額では全社中トップに立っています。また、増加額で第2位となったイビデンは、過去最高となる900億円の投資を計画しています。これは、需要拡大が予測される自動運転や次世代通信システム5G(ファイブジー)向けのICパッケージ基板(集積回路を搭載するための重要な電子部品)関連の投資を前倒しで行うというもので、技術革新を支える企業としての積極的な姿勢がうかがえます。このような非製造業や部品メーカーによるイノベーション(技術革新)への投資は、自動車産業を核とする中部地方経済の多様化と強靭化に寄与するものです。
さらに、100円ショップ大手のセリアが30位にランクインしたことも注目点です。同社は、一部店舗へのセルフレジ導入など、人手不足に対応するための省人化投資を推進しており、小売業界でも生産性向上に向けた取り組みが活発化していることがわかります。私が編集者として感じるところは、中部地方の設備投資は、数値上は全国平均を下回ったものの、その中身は「攻めの投資」が主流であり、特に自動車産業が牽引するCASE関連や、生産性向上を目指すイノベーション投資が着実に進展しているということです。短期間の数字に惑わされることなく、この構造的な変革を積極的に評価すべきでしょう。将来の成長を見据えた投資が続く限り、中部地方の経済は盤石であると言えます。
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