合成樹脂や合成ゴムといった、私たちの生活に欠かせない製品の「源」となる基礎化学品、ベンゼン。そのアジア市場における取引価格が、2019年11月に入り5カ月ぶりの下落に転じました。エネルギー大手であるJXTGエネルギーが提示した11月の契約価格は、前月から85ドルも値下がりし、1トンあたり645ドルという水準に着地しています。これは率にして約12%という大幅な調整であり、市場関係者の間でも今後の動向を注視する声が強まっています。
この価格下落の背景には、アジア経済のエンジンである中国の景気減速が色濃く反映されています。2019年10月上旬の大型連休が明けた後も、本来期待されていた需要の回復が見られず、市場には停滞感が漂っているのです。「ベンゼン」とは、原油から精製されるナフサを原料とした芳香族化合物で、プラスチックや衣類用繊維の原料として非常に重要な役割を果たしますが、実体経済の冷え込みがダイレクトにその価格を押し下げる結果となりました。
さらに、需給バランスの緩和に拍車をかけたのが、ベンゼンを原料として二次加工を行うプラントの動きです。アジア域内では工場の定期修理が相次いで実施されたことで、一時的に原材料としてのベンゼン消費が落ち込みました。SNS上でも「川下の需要がここまで弱いとは思わなかった」「在庫が積み上がっているのではないか」といった、市況の先行きを不安視するサプライヤーやトレーダーたちのリアルな書き込みが散見されます。
米国市場の供給回復とアジア市場への波及
視線を米国に転じると、これまで日本や韓国からの輸入に頼っていた同国でも状況が変化しています。石油取引仲介のアメレックス・エナジー・コムによれば、現地でのプラントトラブルが解消されつつあり、供給体制が安定を取り戻しているようです。これにより、かつてのアジア市場に対する割高感が解消されたため、アジアからの輸出ドライブがかかりにくい環境が生まれました。供給の蛇口が開いた一方で、出口が塞がれつつある状況といえるでしょう。
アジア域内においても、定期修理を終えたベンゼン製造プラントが次々と操業を再開させる見通しです。供給が潤沢になる一方で需要が追いつかないという観測が支配的となっており、これが価格押し下げの大きな要因として機能しています。この影響は日本国内にも波及しており、2019年11月の国内想定価格は1キログラムあたり75.4円と、前月比で8.5円(10%)の大幅な下落を記録しました。国内での値下がりは2カ月ぶりの出来事です。
編集者の視点から言わせていただければ、今回のベンゼン安は単なる一時的な調整ではなく、世界的な製造業の減速を象徴するアラートではないでしょうか。原料安は製品コストを下げるメリットもありますが、それ以上に「モノが作られない・売れない」という背景がある点は懸念材料です。企業の購買担当者は、安値に飛びつくのではなく、今後の各国の景気刺激策がどの程度効力を発揮するのか、より慎重に見極めるべき局面に立たされていると確信しています。
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