化学繊維の川上市場に、ようやく一筋の光が差し込んできました。2019年07月19日、国内最大手の宇部興産が台湾や韓国の主要な需要家と合意した7月分のカプロラクタム契約価格は、1トン当たり1520ドルと前月の水準を維持しています。5月から6月にかけては、わずか一ヶ月で15%も価格が急落するという衝撃的な展開を見せましたが、ここに来てようやく下落の波が収まりつつあるようです。
今回の価格据え置きの背景には、供給過剰の状態が徐々に解消へと向かっているという実情が存在します。市場を牽引する中国では、4月まで80%を超えていた工場の稼働率が、5月から6月には70%台へと抑えられました。原料であるカプロラクタムだけでなく、その先の製品であるナイロン自体の生産量も調整されたことで、膨らんでいた在庫が健全なレベルまで減少したのだと推測されます。
市場の底打ちを支える要因とスプレッド悪化の懸念
専門用語である「カプロラクタム」とは、ストッキングやスポーツウェアに使われるナイロン6の主要な原料を指します。この価格を下支えしたのが、原料のさらに上流にある「ベンゼン」の存在です。原油価格の上昇に伴い、アジア市場でベンゼン相場がわずかに上向いたことが、カプロラクタムのさらなる値崩れを防ぐ防波堤として機能しました。中国の現物取引市場でも、6月末を境に取引価格が安定を見せています。
SNS上では、この下げ止まりに対して「ようやくコスト計算が立てやすくなる」と安堵する声がある一方で、「需要自体が回復したわけではない」と冷静に分析する投資家の投稿も目立ちます。宇部興産も、底値圏と判断した一部の買い手による動きが活発化したと分析していますが、手放しで喜べる状況とは言い難いでしょう。なぜなら、原料価格と製品価格の差を示す「スプレッド」が危機的な水準にあるからです。
現在、カプロラクタムとベンゼンの価格差は1トン当たり900ドルを割り込み、ここ2年で最も低い水準まで落ち込んでいます。これは、原材料を買って製品を作っても、得られる利益が極めて少ないことを意味します。最終的な消費者の需要が依然として力強さを欠いている現状では、企業の収益性は厳しいまま推移するでしょう。市場が真に活気を取り戻すには、単なる在庫調整以上の力強い需要回復が求められます。
編集者の視点から申し上げれば、今回の横ばい決着はあくまで「嵐のあとの静けさ」に過ぎません。供給側の減産によって無理やり需給を均衡させた側面が強く、世界経済の動向次第では再び不安定な展開も予想されます。化学メーカー各社には、市況に左右されにくい高付加価値製品へのシフトや、スプレッドに依存しない強固な経営体質の構築が、これまで以上に急務となっているのではないでしょうか。
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