2019年6月19日、石油化学製品の製造に不可欠な原料価格が、アジア市場を中心に大きく値を下げています。この価格下落の背景には、原油価格自体の低迷に加え、世界経済の成長に対する不透明感の増大があります。特に米中貿易摩擦の激化は、アジア地域、とりわけ巨大消費地である中国の需要を停滞させる大きな要因となるとの見方が強まり、市場全体に警戒感が広がっている状況です。多くの化学メーカーの担当者が、市場の先行きを不安視する声を上げているのです。
化学製品の基礎となるエチレンの取引価格は、東アジア市場で1トンあたり850ドル前後にまで落ち込んでおり、5月半ばからわずか1カ月ほどで100ドル以上も下落して、2018年12月以来の安値圏に突入しました。エチレンとは、石油や天然ガスから作られる、様々なプラスチック製品や化学品の中間原料となる非常に重要な物質です。一部には、プラントの定期修理やトラブルによる一時的な供給過多、つまり余剰感も下落の要因と指摘されています。しかし、それ以上に「需要の力強さが失われている」という先行きへの懸念こそが、この急落の核心にあると言えるでしょう。
エチレンやプロピレンといった原料から作られる合成樹脂、いわゆるプラスチックの需要は、通常、その国の国内総生産(GDP)成長率と密接に連動して伸びてきました。しかし、国際通貨基金(IMF)が2019年4月に公表した世界経済見通しでは、同年、世界の成長率予測は3.3%と、前回予測から0.2ポイントも下方修正されています。米中間の深刻な貿易摩擦、中国経済の減速、さらには英国のEU離脱問題といった複数のリスク要因が世界経済に暗い影を落としており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化が明確に見える状況です。
こうした状況下で、米国政府は5月に中国に対する制裁関税の「第3弾」で税率を10%から25%へ引き上げ、さらに「第4弾」の準備にも入りました。合成樹脂は幅広い製品に使われるため、世界最大の消費市場である中国での需要低迷は、ポリエチレンやポリプロピレンといった代表的な汎用品の価格に直接的な悪影響を及ぼしています。実際、これらの樹脂価格は6月中旬までの1カ月間で1~2割も値下がりするという、急激な動きを見せました。
供給面から価格を押し下げる「シェール革命」の影響
価格を下押ししている要因は需要の低迷だけではありません。供給面では、米国で進むシェールガス革命がもたらした合成樹脂の増産が大きな重荷となっています。シェールガス由来の安価な原料を使った米国産の樹脂が大量に市場に流れ込んでいるのです。特に下げ幅が大きい直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の分野では、2019年3月の米国の輸出量が初めて30万トンを超え、その3分の1がアジア向けと伝えられています。石油取引仲介業者の分析では、「米国の供給増加分が相場を押し下げている」ことは間違いありません。
ただ、アジア市場での合成樹脂価格の下落は、原料であるナフサ(粗製ガソリン)の価格下落に連動している側面も大きく、需給関係を示すナフサと合成樹脂の価格差(スプレッド)は、5月以降の価格下落局面においても大きくは変わっていません。この事実は、足元の価格下落が投機的な動きや市場のムードの悪化による影響も強いことを示唆しています。ディーラー(取引業者)の買い控えが強まり、「先安観」が相場を下押しする大きな要因となっている状況です。
SNSでの反響と編集者としての見解
この化学品価格の下落に対し、SNS上では「化学業界の冬の時代が到来したのか」「米中摩擦がこんな身近な価格に影響するとは」といった、先行きを懸念する声が多く見受けられます。また、「円高が進むかもしれない」「設備投資の時期を考え直す必要がある」など、ビジネスへの影響を指摘する意見も散見されます。しかし、中国のポリエチレンの輸入量は依然として高い水準を維持しているという指摘もあるように、実需が完全に消失したわけではないでしょう。現時点では、世界経済の不安と米国の供給増という二重の圧力が、市場心理を冷え込ませていると見るべきです。
私見として、この状況はアジア経済、特に製造業を抱える国々にとっては短期的な試練であると考えます。合成樹脂は現代社会のあらゆる製品に使われており、その価格の不安定化は産業界全体に影響を及ぼします。しかし、価格の下落は、最終的な製品コストを抑える要因にもなり得るため、川下産業にとっては一概にマイナスとは言えません。重要なのは、現在の市場の警戒感が一時的なものなのか、それとも本格的な景気後退の予兆なのかを冷静に見極めることでしょう。アジア経済の成長ペースがこれ以上鈍化すれば、価格はさらなる一段安となる可能性が高まるため、化学メーカー各社は供給と在庫の調整に細心の注意を払う必要がありそうです。
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