日本の医療機器メーカー、テルモが大きな転換期を迎えています。2019年12月03日現在の予測によれば、同社の2020年03月期の連結売上高は、前期を6%上回る6350億円に達する見込みです。この数字は、長年業界を牽引してきたオリンパスの背中を捉え、わずか20億円の僅差にまで迫る勢いを見せています。もしこのまま逆転が実現すれば、テルモにとっては7期ぶりとなる国内首位の座を奪還することになり、業界内では大きな期待が寄せられているのです。
SNS上では、日本企業が医療分野で存在感を高める様子を歓迎する声が目立ちます。「カテーテル技術のテルモなら、世界でも戦えるはず」「国内トップ争いが激化するのは良い刺激になる」といったポジティブな意見が飛び交っています。しかし、視点を世界市場に向けると、そこには依然として高い壁がそびえ立っています。グローバルな医療機器市場において、テルモの順位は20位前後に留まっており、真の「グローバルメジャー」への道はまだ半ばと言わざるを得ません。
巨大な海外勢との差と、ハードウェア重視からの脱却
世界最大の医療機器メーカーである米メドトロニックは、年間売上高が3兆円を超えており、テルモの6倍近い規模を誇っています。この巨大な競合他社に対抗するためには、単なる規模の拡大だけでなく、ビジネスモデルの根本的な変革が求められるでしょう。そこでカギを握るのが、人工知能(AI)をはじめとするデジタル技術への対応です。従来の医療機器業界は「質の高い道具」を作るハードウェア中心の世界でしたが、今やその前提が崩れ始めています。
医療現場では現在、画像診断の高度化など、ソフトウェアによって実現できる機能が飛躍的に増えています。かつてスマートフォンが普及した際、高性能な半導体だけでは勝てなくなり、OSやアプリといったソフトの重要性が増した構造変化に似ています。編集者としての私の視点では、テルモがこの「医療のデジタル化」に乗り遅れれば、かつてのパソコン業界のように、ハードウェアの価値が相対的に低下する「コモディティ化」の波に飲み込まれるリスクがあると感じています。
実際にテルモの鮫島常務執行役員も、ソフトウェア開発を担う人材の不足を課題として挙げています。佐藤慎次郎社長が掲げる「データ分析やソフトウェアを活用した一歩先の医療」を実現するためには、単にデバイスを売るだけでなく、術後の経過や診断支援まで含めた「ソリューション」の提供が不可欠です。カテーテル技術という独自の強みを、いかにしてデジタルデータと融合させ、新たな市場価値を創造できるかが、世界を相手にした逆転劇の条件となるはずです。
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