2019年12月13日、総選挙で歴史的な圧勝を飾ったボリス・ジョンソン英首相は、勝利の熱狂が冷めやらぬ中で力強く宣言しました。2020年を「繁栄と成長の年」にすると約束した彼の言葉からは、欧州連合(EU)離脱という長年の課題に終止符を打ち、停滞する英国経済を再び力強く成長させるという不退転の決意が伝わってきます。
2016年の国民投票以来、約3年半にわたり英国は出口の見えない政治的混迷の中にありました。しかし、今回の選挙で与党・保守党が下院で圧倒的多数を確保したことで、ようやく事態は大きく動き始めます。この安定感に対し、ドイツの製造業関係者からも「まるでジェットコースターのようだった」と評される不安定な日々からの脱却を歓迎する声が上がっているのです。
金融市場では期待感から英通貨ポンドや英国株が急騰し、SNS上でも「ようやく離脱の不透明感が払拭される」「新時代の幕開けだ」といったポジティブな反応が目立ちます。しかし、市場や国民の熱狂的なムードがどこまで続くのか、その持続性については早くも懸念の視線が注がれています。離脱という手続きの完了は、あくまで新しい戦いの始まりに過ぎないからでしょう。
シンクタンクである英国立経済社会研究所は、ジョンソン氏の離脱案が将来的に国内総生産(GDP)を3.5%も押し下げるとの厳しい予測を2019年に発表しています。GDPとは、国内で一定期間に生み出された付加価値の総額のことで、国の経済的なパワーを示すバロメーターです。EUに残留した場合と比較して成長が鈍化するという事実は、政権にとって重い課題となるでしょう。
立ちはだかる11カ月の通商交渉という巨大な壁
ジョンソン首相が描く戦略の柱は、EUとの新たな自由貿易協定(FTA)の締結です。FTAとは、特定の国や地域の間で関税を撤廃したり制限を緩和したりして、モノやサービスのやり取りを自由にするルールのことを指します。これにより、貿易額の約半分を占めるEUとの良好な関係を維持しつつ、英国独自の規制を導入して経済の柔軟性を高める狙いです。
しかし、ここで大きなハードルとなるのが「規制のズレ」です。日本貿易振興機構(JETRO)も指摘するように、独自の食品基準や工業規格を設ければ、EU市場との間に見えない壁が生まれてしまいます。通関手続きの煩雑化や基準適合のためのコスト増は、企業にとって無視できない負担になるはずです。せっかくの自由を求めて離脱しても、経済的な距離が遠のくリスクを孕んでいます。
さらに深刻なのが、2020年12月末という「移行期間」の終了期限です。通常のFTA交渉には数年を要するのが国際的な常識ですが、ジョンソン首相は「期間の延長はしない」と公約に掲げました。たった11カ月で複雑な交渉をまとめ上げるのは至難の業です。もし交渉が決裂すれば、何の取り決めもないまま関税が発生する「合意なき離脱」と同じ状況に逆戻りしてしまいます。
投資家の間では「まだ最悪のシナリオが消えたわけではない」と慎重な見方も根強く、本格的な投資の呼び込みには時間がかかるかもしれません。ですが、英国には英連邦の強力なネットワークや高度な教育水準、ビジネスに有利な税制という独自の武器が備わっています。これらを最大限に活かし、米国やアジアとの新たな連携を強化できるかが、復活の鍵を握るでしょう。
私個人の見解としては、政治的な安定を得た今こそ、首相には「離脱の実現」というスローガンを超えた、具体的で革新的な成長戦略を示す義務があると感じます。単なるEUの隣国に留まるのか、世界を牽引する独立経済圏として返り咲くのか。2020年からの英国の歩みは、グローバル経済における国家のあり方を問う大きな社会実験になるに違いありません。
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