岡山の豊かな自然に抱かれた湯原、奥津、湯郷。古くから愛されるこれら三つの温泉地が、今、かつてない創造性の熱気に包まれています。2019年12月11日現在、旅館やホテルを舞台に現代アートが競演する回遊型イベント「美作三湯芸術温度」が開催されており、訪れる人々を未知の感動へと誘っているのです。
この壮大なプロジェクトの鍵を握るのが、キュレーターを務める奈義町現代美術館の岸本和明館長でしょう。キュレーターとは、展覧会の企画から作品選定、作家との交渉までを統括する、いわば芸術の演出家を指す言葉です。岸本氏は、どの宿の空間にどの作家の感性が響き合うかを熟考し、唯一無二のマッチングを見事に成立させました。
イベントの実現に向けた岸本氏の情熱は並大抵ではありません。作家との広範なネットワークを駆使するだけでなく、自ら何度も温泉街に足を運び、経営者や女将さんと深い信頼関係を築き上げてきたのです。その努力が実り、3年前に初開催された際は、予想を遥かに上回る10万5千人もの人々がこの地を訪れるという快挙を成し遂げました。
「動く美術館」がもたらす観光と芸術の幸福な化学反応
2020年01月13日まで開催される今回の第2回イベントにおいて、岸本氏は「来場者数倍増」という高い目標を掲げています。氏の原点は、1970年の大阪万博で目にした「太陽の塔」にあるそうです。幼心に刻まれた衝撃が、東京での日本画修行を経て、現在は地元・岡山で「鮮度の高い動く美術館」という新しい文化の形へと昇華されています。
SNS上でも「温泉に浸かりながら最先端のアートに出会えるなんて贅沢」「普段は美術館に行かないけれど、これなら気軽に楽しめる」といった喜びの声が続々と広がっています。日常を象徴する温泉宿と、非日常を象徴する現代アート。この対極にある二つが混ざり合うことで、空間そのものが一つの生命体のように輝きを放ち始めるのでしょう。
私は、この取り組みこそが地方創生の理想形であると確信しています。美術館という箱を飛び出した作品は、整然とした展示室とは異なる生命力を宿し、作家自身の表現力もまた試されることになります。観光と芸術が溶け合うこの試みは、単なるイベントの枠を超え、温泉街に新しい血を循環させる素晴らしい挑戦ではないでしょうか。
岸本氏は今、温泉で生まれた賑わいを再び美術館へと呼び戻す、次なる仕掛けを構想中だといいます。アートの力で地域の価値を再発見し、人々の感性を揺さぶり続ける「美作三湯芸術温度」。2020年01月13日のフィナーレに向け、岡山の北の大地が発する創造の熱気は、さらにその温度を上げていくに違いありません。
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