ビジネスの現場において「時間は資産」という考え方が浸透する中、地方都市を繋ぐ移動手段の勢力図が塗り替えられています。特に注目すべきは、地上を走る鉄道と空を駆ける航空便のライバル関係です。かつては競合一辺倒だった両者ですが、2019年12月26日現在の状況を見ると、それぞれの利便性を活かした鮮やかな棲み分けが進んでいることが分かります。
その象徴的な例が福岡と宮崎を結ぶルートです。陸路では特急を乗り継いでも4時間から5時間を要するこの区間ですが、空路ならばわずか40分ほどで到着します。宮崎ガスに勤務する梶浦秀希さんは、福岡への営業に航空便を多用しており「JRでは1日が潰れてしまう」と、その圧倒的な時間短縮のメリットを強調されています。まさにビジネスのスピード感が空路への依存度を高めているのです。
SNS上でも「九州内の移動で宮崎だけは空路一択」といった声が散見され、その利便性は広く認知されています。実際に2018年度の福岡ー宮崎便の利用者数は、2008年度と比較して2割以上も増加しました。しかし、需要が集中しすぎることで「金曜日の予約が困難」といった贅沢な悩みも生まれており、地方における航空ネットワークの重要性が改めて浮き彫りになっています。
新幹線の台頭とLCCによる「空の逆襲」
一方で、新幹線の開業が航空路線に試練を与えた事例も存在します。2011年に九州新幹線が全線開業した際、鹿児島空港の利用者数はピーク時から約3割も減少しました。しかし、ここで空の旅を救ったのが「LCC(格安航空会社)」の台頭です。LCCとは、効率的な運営によって既存の航空会社よりも安価な運賃を提供する航空会社を指します。
2012年にピーチ・アビエーションが関西線に就航したことを皮切りに、鹿児島空港は活気を取り戻しました。また、2015年の北陸新幹線延伸で大きな打撃を受けた石川県の小松空港も、現在は海外からのLCC誘致に活路を見出しています。台湾からの定期便が拡充されるなど、国内ビジネス客の減少分をインバウンド、つまり訪日外国人観光客の需要で補う戦略が功を奏しているようです。
私は、この「新幹線か飛行機か」という二項対立の解消こそが、地方創生の鍵を握ると考えています。移動の速さを求める層は空へ、景観や途中下車を楽しむ層は鉄路へという選択肢が保たれることは、地域経済に多様性をもたらします。小松空港が台北便を増便させる動きは、単なる路線の維持に留まらず、地方が世界と直接繋がる「グローバルな玄関口」へと進化している証左でしょう。
北海道で見える交通網の未来像
北の大地、北海道でも劇的な変化が起きています。新千歳と函館を結ぶ路線では、この10年で利用者数がなんと60倍以上に急増しました。ANA函館支店によれば、乗客の半数近くがインバウンド客であると言います。限られた滞在時間で効率よく観光地を巡りたい外国人にとって、移動時間を1時間以上短縮できる空路は、非常に魅力的な選択肢となっているのです。
さらに道内では、稚内や女満別といった遠隔地への航空便も好調を維持しています。これは単なる飛行機人気の高まりではなく、JR北海道による不採算路線の見直しや、バス転換の議論といった「交通網全体の再編」が進行していることの表れでもあります。地方の公共交通が維持困難に直面する中で、拠点間を高速で結ぶ航空便の役割は、今後さらに重みを増していくはずです。
特定の交通手段に固執するのではなく、時代やユーザーのニーズに合わせてインフラを最適化していく柔軟性が、今の日本には求められています。移動の効率化は、地方に住む人々の暮らしを豊かにするだけでなく、外からの人を呼び込む磁力にもなります。空と陸、それぞれの強みを融合させた新しい交通の形が、日本の地方をより面白く変えていくに違いありません。
コメント