建設業界の土台を支える生コンクリート(生コン)市場が、大きな転換期を迎えています。全国生コンクリート工業組合連合会の吉野友康会長へのインタビューによると、2019年度の全国出荷量は約8400万立方メートルに留まる見込みとなりました。これは前年度を2%ほど下回る数字であり、これまで市場を牽引してきた東京五輪関連の建設計画が一息ついたことが主な要因です。
さらに現場を悩ませているのが、深刻な人手不足という構造的な課題でしょう。鉄筋を配置する鉄筋工や、コンクリートを流し込む型枠を作る型枠工が不足しており、各地で工事の期間が長期化しています。この影響で生コンの需要が一時的に後ろ倒しになっているのが現状です。SNS上でも「どこの現場も職人さんが足りなくて工期がカツカツ」「人がいなければ材料も動かない」といった、切実な声が数多く寄せられています。
2020年は都心再開発とリニア新幹線が強力な推進力に
しかし、2020年の見通しは決して暗いものではありません。吉野会長は、2020年の出荷量は前年を上回ると明るい予測を示しています。特に東京都心部では、池袋や三田、品川、麻布台といったエリアで大規模な複合施設やオフィスビルの建設が目白押しです。オリンピック開催期間中の交通規制に備え、主要なゼネコン(総合建設会社)が大会前に基礎工事を終わらせようと動くため、一気に需要が高まる可能性を秘めています。
この盛り上がりは首都圏だけではなく、地方都市へも波及していくでしょう。名古屋駅周辺や福岡市の天神地区での再開発に加えて、リニア中央新幹線の整備や圏央道エリアの物流施設建設など、大型プロジェクトが控えています。民間需要だけでなく、北海道や北陸、九州で続く整備新幹線の延伸工事といった公共事業も、2020年の市場を力強く引っ張るエンジンになりそうです。
国土強靱化対策への期待とコスト高騰による値上げの必然性
さらに注目すべきは、政府が推し進める「国土強靱化(こくどきょうじんか)」の緊急対策です。これは大規模な自然災害に備え、事前に対策を講じて被害を最小限に抑えようとする政策を指します。2018年度から2020年度までの3年間で7兆円規模の予算が組まれ、河川の堤防強化や雨水貯留施設の整備などが計画されています。現在はまだ生コンの需要に直結していませんが、今後の出遅れ分を取り戻す起爆剤として期待が高まります。
こうした需要の回復が見込まれる一方で、生コン業界は製造コストの上昇という壁に直面しています。原材料となるセメントや骨材(コンクリートの材料となる砂や砕石のこと)の価格が上がっているほか、物流費や人件費の高騰も深刻です。もはや各企業の努力だけでコストを吸収することは限界に達しており、全国の製造協同組合が相次いで価格の引き上げを表明しています。
ゼネコンとの価格交渉とこれからの業界展望
国内最大の出荷量を誇る東京地区生コンクリート協同組合は、2020年4月の契約分から値上げに踏み切ることを発表しました。吉野会長は、発注者であるゼネコン側も厳しい市場環境に対して一定の理解を示していると語り、価格改定の浸透に期待を寄せています。インターネット上では「インフラを維持するためには適正価格への値上げはやむを得ない」という好意的な意見が目立ちます。
しかし、楽観視ばかりはできません。オリンピック後の需要回復への期待がある一方で、慢性的な労働力不足が劇的に改善する見込みは薄いからです。工期の遅れが長引けば、期待通りの需要が生まれないリスクも残されています。発注側であるゼネコンも利益の確保に必死であるため、価格交渉を巡る両者の攻防は長期化するでしょう。安定供給と適正利益の確保に向けた、業界の粘り強い交渉が求められます。
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