大正から昭和という激動の時代に「天皇の料理番」として宮中を支えた秋山徳蔵さんをご存じでしょうか。彼の最初の大舞台となったのが、1915年11月に京都の二条離宮で催された大正天皇の即位を祝う華やかな宴でした。この記念すべき賜宴で提供され、人々の度肝を抜いた伝説の「ザリガニのポタージュ」が、令和の時代に鮮やかに蘇ります。舞台となるのは、栃木県日光市に佇む歴史ある名門、中禅寺金谷ホテルです。
このロマン溢れる美食の復活劇に対し、SNSでは「ザリガニが高級ホテルのスープになるなんて驚き」「天皇の料理番のレシピを現代に再現する試みが素晴らしい」といった興奮の声が続々と寄せられています。多くの人々が、かつて皇室が堪能した未知なる味わいに強い興味を抱いているようです。冬の澄んだ空気と静寂に包まれる神秘的な中禅寺湖のほとりで、歴史の息吹を感じられる至高の一皿がまもなく誕生します。
幻の宮中ディナーを現代に再現!職人たちが織りなす極上の味わい
中禅寺金谷ホテルでは、2020年2月から特別なフルコース「大正天皇大饗献立(仮称)」の提供を開始する予定です。その主役として注目を集めるのが、美しく盛り付けられたザリガニのポタージュになります。ジャガイモやタマネギをベースにした純白のスープは、ザリガニの鮮やかな赤色をいっそう引き立てる仕上がりです。気になるその身は、エビよりも非常に柔らかい食感で、クセが全くなく淡白な旨味を楽しめるでしょう。
ザリガニの風味を凝縮した二番だしに、芳醇な白ワインと酸味のあるトマトを合わせ、薄くパリッと焼き上げたフランスの伝統菓子「チュイル」が皿を華やかに彩ります。「素材を余すことなく使い、無駄を出さずに仕上げました」と、開発を手掛けた増子陽料理長は胸を張ります。当時の詳細なレシピは残されておらず、手がかりは古いスケッチのみでしたが、熱意に満ちた試行錯誤の末にこの素晴らしい一品が完成しました。
驚くべきことに、かつて秋山さんのもとで「昭和天皇の料理番」を務めた谷部金次郎さんもこのスープを試食しています。巨匠から「大変おいしい」と太鼓判を押されたその仕上がりは、まさに折り紙付きと言えるでしょう。当時の宮廷料理の格式高さを現代に伝えるため、増子料理長をはじめとする現代の職人たちが、並々ならぬ情熱を注いでいる様子が伝わってきます。
絶滅危惧種からの挑戦!地元高校生と挑んだ臭み消しの裏舞台
かつて秋山さんが使用した「ニホンザリガニ」は、現在は絶滅危惧種に指定されており、手に入れることはできません。そこで今回採用されたのが、栃木県那珂川町で育ったアメリカザリガニです。海外からの輸入品も検討されましたが、独特の臭みに課題があったため、純国産の地元食材を活用する道を選びました。この挑戦を支えたのが、水産科を擁する栃木県立馬頭高校の生徒たちです。
ザリガニは泥抜きの後、臭みが出ないよう生きたまま瞬時にボイルされ、真空パックで冷凍されてホテルへ届けられます。高校生たちの見事な加工技術によって臭みを完全に克服した試作品を口にした瞬間、増子料理長は「これならいける」と確信したそうです。料理長は「自分は通常の手仕事をしただけ。本当に苦労したのは馬頭高校の皆さんです」と、若い力への感謝を惜しみません。
なぜ日光でザリガニなのか?100年の時を超えて繋がる歴史のロマン
そもそも、なぜ京都の宴の料理が日光で再現されるのでしょうか。そこには、100年前のザリガニ確保にまつわる面白い逸話が存在します。秋山さんは宴に「めったに味わえない珍味を」と、北海道の支笏湖からザリガニを集めました。その際、大正天皇や秋山さんが滞在していた日光の田母沢御用邸に一度集積してから京都へ運んだのです。本番前に約3000匹が水槽から脱走し、大捜索が行われたエピソードは今も語り草となっています。
この歴史に着目したのが、水生生物の研究を続ける堀彰一郎さんです。秋山さんの著書にある「当時の名残で日光にザリガニがいる」という記述を頼りに、堀さんは2006年、御用邸近くの沢で3匹のニホンザリガニを発見しました。この奇跡的な発見をきっかけに「ザリガニを日光の新たな観光資源にできないか」という夢が膨らみ、増子料理長との出会いを経て、今回のメニュー開発へと結実したのです。
歴史と情熱を五感で味わう!これからの地方創生への期待
今回の試みは、単なるメニューの再現に留まらず、歴史的なストーリーと地域の絆を掛け合わせた見事な地方創生のモデルであると私は強く感じます。ただ珍しい食材を使うだけでなく、地元の高校生や川魚店が一体となり、地域の歴史を掘り起こしてブランド化するプロセスには深い価値があります。こうした物語消費の形こそ、これからの観光業が目指すべき理想像ではないでしょうか。
この贅沢なコースは税・サービス料込みで1万9360円となっており、ポタージュの他にも、当時の「鱒の酒蒸し」を栃木の名産魚を用いた「プレミアムヤシオマスの白ワイン蒸し」にアレンジするなど、地産地消の魅力が満載です。大正と令和という二つの時代を超え、料理人の情熱と栃木の豊かな自然が交差する中禅寺金谷ホテルで、ぜひ100年のロマンを五感で堪能してみてください。
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