2020年2月6日現在、日本国内のコメ先物市場に少しずつ緊張感が漂い始めています。その原因は、この冬の記録的な少雪です。雪不足が2020年産米の作柄(作物の出来栄え)に悪影響を及ぼすのではないかという懸念から、先物価格が上昇傾向にあります。市場関係者は、雪不足による深刻な水不足や、将来的な夏場の高温が品質に及ぼす影響を強く警戒しているのです。
新潟農園の平野栄治社長は、「これほど雪が降らない冬は経験がない。春以降の生育期に水不足にならないか、非常に不安だ」と胸の内を明かします。気象庁のデータによると、2020年1月末時点で新潟市の積雪はゼロを記録し、例年50センチメートル以上の積雪がある長岡市でも同様の状況でした。北陸地方全体でも、1月中旬までの気温が平年より2度以上高くなっています。
農家の方々が抱く不安には、過去の苦い経験が背景にあります。新潟県では近年の天候不順により、理想的な収穫が難しい状況が続いていました。特に2019年産米は、夏場の高温障害によって米粒が白く濁ってしまうなどの品質低下が起き、市場価値の高い「1等米」の流通量が大幅に減少したのです。このような状況下で、今回の少雪は大きな懸念材料となっています。
気候変動がもたらすコメ栽培への危機
この不安は、大阪堂島商品取引所の相場にも如実に反映されています。指標となる「新潟コシヒカリ」先物の2020年10月限(きり)は、少雪の現状が明らかになるにつれて上昇しました。1月21日には一時60キロあたり1万6690円を付け、2019年12月上旬の安値から約4%上昇しています。この動きは、関係者が今後の需給バランスを非常にシビアに見ていることの証左でしょう。
京都大学大学院農学研究科の白岩立彦教授は、現在の気候変動がコメの生育、特に品質に甚大な悪影響を与えている可能性を指摘します。最近の稲作ではチッ素肥料を抑える傾向があり、その状態で猛暑に見舞われると、米粒が白濁しやすく品質等級が下がる傾向が強まります。実際に2019年産は、1等米の収量が過去10年で最低水準まで落ち込みました。
さらに切実な問題として、農業用水の不足が挙げられます。新潟の山間部などでは、冬場の積雪が融けて流れる水が稲作の命綱となっている地域も少なくありません。もしこのまま雪不足が続けば、田植え前の準備作業である「しろかき」ができない恐れや、稲の生育に最も水を必要とする8月の「出穂期(しゅっすいき)」に、十分な水量を確保できないリスクが現実味を帯びています。
不透明な時代におけるリスクマネジメント
2020年産の作付け方針を巡り、生産者は難しい決断を迫られています。農林水産省は人口減少に伴い、需要が前年比で10万トン減少すると見込んでおり、作付けの削減を推奨しています。しかし、この試算は単収が平年並みであることを前提としています。温暖化による影響が顕在化する今、多くの生産者がこの前提を楽観的すぎると感じているのではないでしょうか。
新潟ゆうきの佐藤正志社長は、今こそ「コメ先物でのヘッジ売り」が重要だと説きます。先物取引とは、将来の売買価格をあらかじめ決めておく手法であり、収益を事前に固定することで、気候変動や市況の変動というリスクから経営を守る仕組みです。先物取引の活用は、農家が安定した経営を続けるための「守りの経営」として極めて有効な手段だと考えられます。
実際、新潟コシヒカリ先物の1月における1日平均取引量は約1300枚に達し、17カ月連続で前年同月を上回りました。気候変動リスクという厳しい現実に直面し、生産者側も先物取引という新しい防波堤のメリットに気づき始めています。自然を相手にする農業だからこそ、こうした金融技術を賢く使いこなす柔軟な姿勢が、今まさに求められているのではないでしょうか。
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