2020年春からいよいよ商用サービスが開始される次世代通信規格「5G」。超高速で大容量の通信が実現する未来に胸が躍りますね。SNSでも「動画が瞬時にダウンロードできる」「未来の生活が楽しみ」と期待の声が溢れています。しかし、スマートフォンと基地局を結ぶ無線の電波がどれだけ強くなっても、そこから先のデータを運ぶ有線回線が細ければ通信は渋滞してしまいます。実は5Gの快適さを保つためには、地面の下や海の底にある固定回線の強化が絶対に欠かせないのです。
そこで沖縄セルラーとKDDI、国際ケーブル・シップの3社は、沖縄県名護市と鹿児島県日置市を繋ぐ全長760キロメートルの新たな海底ケーブルを敷設することを決定しました。これまで確保されていた回線は毎秒8テラビットでしたが、新ルートでは一気に10倍となる毎秒80テラビットへと跳ね上がります。テラとは1兆を意味する単位で、これほどの超大容量化に踏み切る背景には、あらゆるモノがネットに繋がる「IoT」の普及による通信量の爆発的な増加があります。
さらに、このプロジェクトには災害対策としての重要な側面も存在します。過去を振り返ると、2019年9月24日には大型台風の影響で沖縄の離島を結ぶケーブルが被災し、長時間の通信障害が発生しました。また、巨大地震による海底の地すべりなどで線が切れるリスクも常に付きまといます。これまで九州と沖縄を結ぶ通信網は太平洋側に偏っていたため、南海トラフ地震が発生した際には全ての通信が断絶し、沖縄が情報孤島になってしまう危険性が指摘されていました。
このような危機を回避するため、今回は東シナ海側を通る「西側ルート」を新設して通信網を多重化し、リスクの分散を図る方針です。気になる工事費は非公開ながらも50億円を超える見込みで、民間企業が主導する一大プロジェクトとなっています。ネット上では「私たちの知らないところで、莫大な費用をかけて命綱を作ってくれている」と、その社会的意義に感動するコメントが寄せられており、インフラの重要性を再認識する人が増えています。
この大がかりな敷設工事を担うのが、2019年9月に就航したばかりの最新鋭の敷設船「KDDIケーブルインフィニティ」です。全長113.1メートル、総トン数9766トンという巨体を誇り、最大80名が50日以上も船上で活動できる能力を秘めています。一度に約5000キロメートルものケーブルを積載できるため、日本とアメリカを繋ぐような遠大な工事もこなせる頼もしい存在です。さらに災害時には、海の上から電波を届ける「船舶型基地局」として復旧を助ける役割も担います。
普段は目にすることのない海の底ですが、実は故障との戦いでもあります。台風で河川から大量の土砂が流れ込むだけでも線が引っ張られて破損することがあり、そのトラブルは年間20件から30件も発生しています。こうした事態には、船から海中作業用ロボット「ROV」と呼ばれる遠隔操作車両を潜らせて修理を行います。海底深くで故障箇所を探し当てて切断し、一度船の上まで引き上げてから繋ぎ直すという、実に職人技のような地道な保守作業が日々行われているのです。
私たちが暮らす日本は海に囲まれており、海外との通信の99%以上を海底の光ファイバーに頼っています。驚くべきことに、国内の都市間を結ぶルートでも海底ルートが積極的に採用されています。なぜなら、陸上の道路を掘り返して線を埋めるよりも、海の底に沈める方が圧倒的にコストを抑えられるからです。陸上では1キロメートルあたり約2億円の費用がかかるのに対し、海底であれば劇的に安く抑えられるため、通信の安定と経済性を両立させる賢い選択と言えます。
最新の5Gや華やかなスマートフォンばかりに目を奪われがちですが、私たちの快適なネット環境は、こうした深海に眠る巨大なインフラと、それを守る人々の存在があってこそ成り立っています。次世代の通信革命を真に支えているのは、こうした目に見えない地道な技術への投資です。華麗な無線通信の舞台裏で、今日も海の底から私たちの未来を支えるプロジェクトが進んでいることに、深い敬意と期待を寄せずにはいられません。
コメント