2019年6月4日現在、人工知能(AI)をはじめとする高度なIT人材の獲得競争が、かつてないほどに過熱しています。これは、IT分野に精通した技術者や専門家を巡る、まさに**「AI人材争奪戦」と呼べる状況でしょう。デジタル化の波があらゆる産業に押し寄せる中で、AI技術者や、データ分析の専門家であるデータサイエンティスト**、そしてサイバーセキュリティー人材の需要は急増していますが、残念ながらその供給が追いついていません。
実際、経済産業省の発表によると、IT人材の不足数は2018年時点で22万人に達しており、このままでは、特に高度な技術を持つ先端IT人材に限定しても、2030年には55万人もの不足が生じる恐れがあるという試算が出ています。このような深刻な人材不足を背景に、企業は単に待遇を改善するだけでなく、M&A(合併・買収)や徹底した社内研修など、採用と育成の手段を多様化させることで、この難局に対応しようとしているのです。
💰高待遇で専門人材を確保!初任給アップや年俸制の導入
人材争奪戦の様相がはっきりと見て取れるのが、各企業による**「厚遇」の提示です。ソニーでは、デジタル分野で高い能力を持つ新入社員を対象に、年間給与を最大で2割増し**にする制度を2019年度から適用することを決めました。同社の人事担当者が「ここ2、3年で専門職に高い給与を支払うことをためらわない会社が増え、明らかに雰囲気が変わった」と述べているように、優秀なデジタル人材への対価意識は劇的に変化していると言えるでしょう。
さらに、NTTドコモもまた、AIなどの高い専門性を持つ人材に対し、同社の平均年収の3.4倍にあたる最高3,000万円を提示し、2019年夏にも社外から公募を始める予定です。これは、研究開発部門やエンターテインメントといった非通信分野を対象とする新たな人事制度の一環であり、1年契約の年俸制を導入し、採用時の前職での実績などに基づいて報酬額を個別に決定する方式を採用しています。現役社員も応募可能とすることで、社内外から優秀な人材を引きつける狙いがあるようです。
🚀スタートアップ企業のM&Aで技術者とノウハウを一気に獲得
待遇改善だけでは間に合わないと判断した企業は、M&Aという大胆な手段で人材と技術を確保する動きに出ています。京セラの子会社である京セラコミュニケーションシステムは、2019年1月にAI関連技術を専門とするスタートアップ企業、Rist(リスト)を買収しました。Ristは、深層学習(ディープラーニング)や機械学習といったAIの中核技術を用いた画像システムの開発やデータ解析を手がける企業です。深層学習とは、人間の脳の神経回路を模したニューラルネットワークを多層構造にすることで、機械が大量のデータから特徴を自動で学習し、高精度な判断を可能にする技術のことですね。
京セラグループは、この買収によってリストの持つ優秀な人材と技術を迅速に取り込み、自社のサービスや製品の強化に直結させる考えです。また、広告大手の電通も同様にAI開発のスタートアップを買収しており、同社の榑谷典洋執行役員は「AI技術を持つ会社を子会社として持つことが優位性につながる」と語っています。これは、もはや時間をかけて自前で人材を育てるよりも、既に技術を確立している企業を丸ごと仲間に加える方が、競争環境において迅速な成果を得られるという、現代的な経営判断の表れでしょう。
🏫社内研修の高度化と外部技術の活用
外部からの獲得だけでなく、現在社内にいるIT人材のスキルを底上げするため、高度な研修プログラムを実施する企業も増加しています。例えば、システム開発の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、2019年3月から選抜したエンジニア向けに、さらに高度なデータ分析やAI開発の技術を学べる研修をスタートさせました。また、東京海上ホールディングスも、保険ビジネスへの応用を目的とした**「データサイエンティスト」**を養成するプログラムを2019年5月に開講するなど、即戦力化に向けた取り組みが活発化しています。
さらに、ダイキン工業は大阪大学と連携し、社内講座を設けることで、2020年度までにAIなどに詳しい人材を1,000人育成する計画を掲げています。企業が自社のニーズに合わせて、大学などの専門機関と手を組むことで、実践的な知識と技術を効率的に社員に提供しようとしていることがわかります。一方で、AI人材が不足している企業側のニーズを取り込むべく、技術を外部に販売する動きもあります。LINEは2019年上半期中に、自社開発のAI技術を外部に有償で開放する予定で、まずは言語解析の技術を共有することで、開発の専門家がいない企業でも、AIが自動で回答する**「チャットボット」**などの開発に役立てられるようにするそうです。
💡AI人材が定着するための経営課題と働き方の見直し
このように、様々な戦略でAI人材の確保が進められていますが、一つ大きな課題が残されています。それは、たとえ優秀なAI人材を確保できたとしても、経営層のITに対する理解度が低ければ、彼らが存分に活躍できる場を提供できず、結果として人材が流出してしまうという問題です。PwC Japanグループが2017年にまとめた世界のCEO(最高経営責任者)意識調査では、日本企業のデジタルやテクノロジーに対する関心が世界で最低水準だったという、厳しい結果が出ています。
この調査結果は、日本の経営層が、デジタル技術の重要性を十分に認識し、AI人材の価値を理解しきれていない可能性を示唆していると言えるでしょう。私見ですが、AI人材が常に最新の技術を学び続け、モチベーションを維持するためには、技術者に兼業や副業を解禁するといった柔軟な働き方の見直しも不可欠です。高額な給与だけでなく、常に新しいプロジェクトに挑戦し、スキルを磨ける環境を提供することが、AI人材を長期的に定着させるための鍵になるのではないでしょうか。これは、企業文化全体をデジタルシフトさせていく、大きな変革のチャンスだと捉えるべきです。
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