エネルギー市場に大きな地殻変動が起きています。発電に欠かせない燃料である石炭の価格が、ここへ来て急速に下落しているのです。2019年07月20日現在、国際的な指標となるオーストラリア産の燃料用石炭のスポット価格は、1トンあたり75ドル前後で推移しています。これはわずか1年前と比較して約36%も低い水準であり、2017年の夏以来、約2年ぶりの安値を記録することとなりました。一時は70ドルを割り込む場面も見られるなど、市場には弱気な空気が漂っています。
この価格下落の背景には、世界規模で加速する「石炭離れ」の影響が色濃く反映されていると言えるでしょう。SNS上では「環境に悪い石炭が売れなくなるのは時代の流れ」「日本の電気代が安くなるなら歓迎したい」といった、環境面と家計面の双方から注目する声が上がっています。特に注目すべきは、企業の環境負荷を重視する「ESG投資」の広まりです。これは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った投資手法で、これにより石炭火力への資金流入が厳しくなっています。
中国のエネルギー転換と液化天然ガス(LNG)の台頭
世界最大の石炭需要国である中国の動向が、市場に決定的な打撃を与えています。深刻な大気汚染に悩む中国の都市部では、すすや二酸化炭素の排出が少ない液化天然ガス、いわゆるLNGへの燃料転換が急速に進められているのです。かつては前年比で10%以上の伸びを見せていた中国の石炭輸入量ですが、2019年には前年比でマイナスに転じるという予測も出ています。アジア諸国での需要は根強いものの、巨大市場である中国や欧米の消費停滞を補うには至っていないのが現状です。
さらに石炭のライバルであるLNG自体の価格も、100万BTU(英国熱量単位)あたり4ドル台前半という低水準に留まっています。BTUとは熱量を表す単位ですが、この価格低下により石炭のコスト的な優位性が失われつつあるのです。アメリカやオーストラリアで新しいLNGプロジェクトが次々と稼働したことで供給が安定し、大手電力会社からも「石炭からLNGへの置き換えは今後さらに加速する」との見方が強まっています。安価でクリーンな燃料へのシフトは、もはや止めることのできない奔流と言えるでしょう。
私たちの生活への恩恵とこれからのエネルギー社会
こうした国際的な資源価格の下落は、日本の消費者にとっても決して他人事ではありません。現在の日本の電力供給において、石炭火力発電は約3割という大きな比率を占めているからです。燃料の調達コストが下がれば、それは巡り巡って私たちの家庭に届く電力料金の引き下げ圧力として働きます。2019年07月20日時点の状況を鑑みると、家計にとっては追い風となるニュースと言えます。電力会社によって電源構成に差はあるものの、この安値圏での推移は明るい兆しと言えるはずです。
編集者の視点として付け加えるならば、今回の価格下落は単なる一時的な需給の緩みではなく、エネルギー構造そのものの歴史的な転換点を示していると感じます。安価な石炭に頼り続ける時代が終わりを告げ、環境価値と経済合理性が両立する新たなフェーズに入ったのです。目先の電気代の値下げを喜びつつも、私たちはより持続可能なエネルギー社会のあり方について、真剣に考え直すべき時期に来ているのではないでしょうか。この石炭安が、日本が次世代の電源構成を模索する上での重要なヒントになることは間違いありません。
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