近年、新薬開発に集中してきた日本の製薬大手企業が、リハビリ支援機器をはじめとする医療機器の開発に相次いで乗り出していることが大きな話題となっています。この動きの背景には、高額な抗がん剤「オプジーボ」などへの批判をきっかけに進められている薬価(医療用医薬品の公定価格)の引き下げを巡る一連の改革があります。収益源の確保が困難になるという危機感から、既存のビジネスモデルを変革し、新たな事業の柱を模索する試みが加速しているのです。
特に注目すべきは、大日本住友製薬の動きでしょう。同社は、2021年頃の発売を目標に、スタートアップ企業と連携してリハビリ支援機器の開発に着手しています。この機器は、病気や怪我で手足が動きにくくなった患者さんが装着し、リハビリ時に体から発せられる電気信号を読み取ります。その信号に基づいて、患者さんが一人でリハビリを行う際に、効果的で痛みの少ない角度や力で手足を動かすようサポートする仕組みです。この技術の土台となっているのが、ロボット開発を手がけるメルティンMMI(東京・新宿)のノウハウで、大日本住友製薬は7億円を出資し、さらに西中重行執行役員がメルティンの取締役を兼務するという連携体制を敷いています。
大日本住友製薬は、パーキンソン病や統合失調症などの神経領域の医薬品に強みを持っており、神経が刺激を受けることで機能が回復する**「神経の可塑性」に関する知見をメルティンと共有し、機器の開発に活かしているようです。高齢化の進展に伴い、理学療法士が不足する医療機関や在宅医療の現場で大きな需要が見込まれるため、同社は機器の販売を新たな収益源と見込んでいます。「高齢化でリハビリは巨大な市場に成長する」と、西中執行役員も大きな期待を示しています。
こうした医薬品の周辺領域への進出は、単に医療機器市場の拡大を見据えたものだけではありません。田辺三菱製薬の三津家正之社長は、米欧で2022年度の発売を目指しているパーキンソン病治療薬と連携させた機器について、「機器と連携させれば、後発薬(ジェネリック医薬品)に対する高い参入障壁になる」と述べています。新薬開発は成功すれば大きな利益をもたらしますが、特許が切れると安価な後発薬が登場し、その収益は直撃を受けます。機器と薬を組み合わせることで、特許切れ後も収益を継続して得ることが可能になると期待されているのです。
田辺三菱製薬が開発を進めるのは、口から服用するパーキンソン病治療薬を液剤化し、携帯可能なポンプで24時間皮下注射する仕組みで、薬の血中濃度を安定させることで、手足の震えなどの症状を抑えることを目指しています。この技術は、2017年に約1200億円で買収したイスラエルの創薬スタートアップ、ニューロダームが持つ経口剤の液状化や機器開発の技術が基盤となっており、現在は米欧で最終段階の臨床試験**(治験)に入る予定です。新薬開発に集中投下する従来のモデルから、「薬+機器」という複合的なビジネスモデルへの転換を急いでいる状況が垣間見えます。
この異分野への進出は、国内の薬価下落が著しく進んでいるという切実な危機感から生まれています。政府は、高額なオプジーボへの批判を受け、2016年に薬価の新たな制度を導入しました。例えば、年間1500億円超を売り上げた医薬品については、最大で50%の値下げが可能になるなど、薬価の引き下げが断行されたのです。さらに、2021年度からは、これまで2年に一度だった薬価改定を毎年実施するように切り替える方針です。これにより、新薬を発売しても、以前は2年間見込めた同じ収益が今後は1年分しか見込めなくなると予想されており、製薬会社にとって収益予測の不確実性が高まっています。
🏥医療費抑制と新ビジネスモデルの探求:IT・機器連携の可能性
薬価が下がることは、高齢化に伴い増大し続ける医療費の抑制に繋がるため、国策として後発薬の普及が進められています。その結果、医療用医薬品の市場全体が縮小傾向にあります。米調査会社IQVIAは、2026年までの10年間で、日本の市場は年平均1%強ずつ縮小すると予測しています。市場の縮小は開発意欲の減退という問題もはらんでおり、製薬会社は従来の枠組みにとどまれない状況にあると言えるでしょう。
エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)が、認知症予防の助言アプリを開発しているように、製薬会社が着目するアプリもまた医療機器の一種として捉えられています。「治療薬だけにとどまらないビジネスモデルへの変革が重要だ」という内藤CEOの言葉は、この業界全体の危機感と方向性を象徴していると言えるでしょう。私の意見では、これは製薬産業が社会の要請に応え、ただ薬を提供するだけでなく、病気の予防や生活の質の向上(QOL)までをトータルでサポートする**「ヘルスケア・ソリューション企業」へと進化するための、不可避な一歩だと考えられます。
現在、大手製薬会社による医療機器事業への進出は、多くがまだ開発段階にあり、成功事例はこれから生まれるところです。しかし、世界では既に開発競争が始まっています。米国のイーライ・リリーがパーキンソン病患者の体内に埋め込む薬剤注入機器を開発しているほか、米マイクロソフトのような世界的なIT大手の力を借りて、薬と機器だけでなく、システム全体を事業の焦点とする動きも見られます。日本においても、このIT・機器連携の流れが本格化する可能性は非常に高いでしょう。新興勢とのタッグによるイノベーションは、日本の製薬業界が持続的な成長を実現するための鍵となるに違いありません。
この一連の動きは、SNSでも大きな反響を呼んでおり、「薬価が下がるのは患者にとって良いことだが、開発費を回収できなくなるのは困る」「薬と機器の組み合わせは画期的」「日本の技術力と製薬の知見が融合すれば、世界で勝てる」といった意見が多く見受けられます。特に、「機器と連携させれば後発薬に対する高い参入障壁になる」**という田辺三菱製薬社長の発言には、「企業戦略として非常に賢明だ」と賛同する声が目立っていました。製薬業界の未来は、このイノベーション戦略にかかっていると言っても過言ではありません。
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