自動車業界に衝撃が走っています。ブレーキの名門、曙ブレーキ工業が2019年08月26日、経営陣の刷新という極めて重い決断を下しました。長年同社を牽引してきた信元久隆会長兼社長を含む代表取締役3名が退陣し、その後任として元日本電産常務執行役員の宮地康弘氏が2019年09月27日付で新社長に就任することが発表されたのです。
同社は現在、アメリカ事業での苦戦を背景に資金繰りが急速に悪化しており、法的な倒産手続きを避けながら再建を目指す「事業再生ADR」を申請しています。事業再生ADRとは、裁判所を介さずに債権者である銀行団と話し合い、借金の返済猶予や免除を求める手続きのことです。この難局を乗り越えるため、外部から強力なリーダーを招くことになりました。
SNS上では「ついに信元体制が終わるのか」「日本電産流のコスト意識が曙にどう作用するか楽しみだ」といった驚きと期待が入り混じった声が数多く投稿されています。伝統ある企業が、あえて外部の血を入れることで生き残りを図る姿に、多くのビジネスマンが注目しています。まさに、創業家からプロ経営者へのバトンタッチという歴史的な転換点と言えるでしょう。
世界が認めた技術力と、直面する巨額債務の壁
退任する信元会長は1990年に社長に就任して以来、29年という長きにわたり同社を支えてきました。F1のトップチームであるマクラーレンにブレーキ部品が供給されるなど、その技術力は世界最高峰として認められています。トヨタ自動車の協力会である「協豊会」の会長を務めるなど、日本の自動車産業の発展に寄与した功績は計り知れません。
しかし、技術へのこだわりが強かった一方で、急速な海外展開に伴う収益管理には課題が残っていたのかもしれません。同社は現在、銀行団に対して約560億円という膨大な債権放棄を要請しています。これは借入金の約半分に相当する額であり、銀行側が首を縦に振るには、納得感のある抜本的なリストラ案と、それを実行できる強力な体制が不可欠でした。
今回の人事により、信元氏に代わって「空席」となる会長職を残しつつ、宮地氏が実務の全権を担うことになります。2019年09月27日に開催予定の臨時株主総会を経て、新体制が正式に発足する運びです。名門のプライドを守りつつ、いかにして赤字の泥沼から脱却するのか、新社長の手腕が厳しく問われることになるでしょう。
日本電産仕込みの「稼ぐ力」で挑む大胆なリストラ策
新社長に指名された宮地康弘氏は、世界的なモーターメーカーである日本電産で車載事業の要職を歴任した人物です。日本電産といえば、徹底したコスト削減とスピード感あふれる経営で知られています。宮地氏はボッシュなどの外資系メーカーでの経験も豊富で、完成車メーカーへの食い込み方や、効率的な開発手法を熟知しているスペシャリストです。
曙ブレーキが今後実施する再建計画には、日米欧に点在する6つの工場を閉鎖または売却するという、身を切るような内容が含まれています。ここで期待されるのが、宮地氏が持つ顧客開拓のノウハウと、徹底した無駄の排除です。新たな販路を切り開きながら、製造現場の効率を劇的に高めることで、収益構造を根本から作り直そうという狙いが見て取れます。
編集部としては、今回の人事は「最後のチャンス」ではないかと考えています。技術力という強固な土台があるうちに、日本電産流の「収益への執着心」を注入できるかが鍵を握ります。2019年09月18日の債権者会議で銀行団の合意を得られるか、そして株主の承認を取り付けられるか。新時代の曙ブレーキへの脱皮は、まさに今、始まろうとしています。
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